
みんなは近いうちに逃げ出したくなるような嫌なことってある? あるよね、きっと。明日になっちゃえばいいのにって思うようなそんな時。僕、芦屋優太はそんな時間を早送りできる能力を手に入れたんだ。これでもう勉強や揉め事、全ての嫌な時間から逃げることができる。やったね! そうして早送りしながら日々を過ごしてたら知らないうちに彼女が出来ていた! しかも相手はあのクラスの問題児、柳戸希美だって? 僕は怯えながらも付き合い始めたんだけど、意外にも柳戸はとても優しくて、そしてとても可愛くて……。どうして柳戸はこんな僕のことを好きになってくれたんだ……? え、このラブコメ、僕だけ知らないの? 第13回MF文庫J新人賞最優秀賞受賞作!
『僕の知らないラブコメ』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
書店で何か面白そうな本は無いかと表紙を見たり、あらすじを読んでいたところ、『僕の知らないラブコメ』のあらすじが面白そうなので購入いたしました。
嫌なことを体験せずに回避して、その成果のみ受け取ることができる。
私自身もそんなことを妄想していた覚えがありますので、この題材をどのように料理するのか?と興味深く思いましたよ。
ネタバレなしの感想
主人公『芦屋優太』は、とある経験から努力をすることを厭い、学生生活を無気力に過ごしていた。
そんな『芦屋優太』がトラブルに巻き込まれ窮地となったときに、時間をスキップする能力に目覚めることになる。
時間がスキップされた世界では、学園の問題児でありヒロインの『柳戸希美』といつのまにやら付き合うことになっており『芦屋優太』は混乱する。
付き合うこととなった切っ掛けが分からず混乱しながらも『柳戸希美』と付き合いを続けるうちに問題児と思われていた彼女の本当の姿を知ることになっていく
好意をもたれた理由が分からぬままの表面上の交際を続ける『芦屋優太』は、『柳戸希美』と向き合い彼女に相応しい人間になれるのかというお話。
『僕の知らないラブコメ』、面白かったです。
「第13回MF文庫J新人賞最優秀賞受賞作」とある通り、新人作家のデビュー作らしい荒い部分はありましたが、それを意識させない面白さがありました。(荒々しさとはいえ、初見ではそんな気になら無い程度です。落ち着いて読み返すとキャラクターの動きが不自然だったり、無理がちょっとあるかなと思うくらいです。)
自分が面白かったと思った要素は、ヒロインとのラブコメ部分がまず第一にありますね。
そして作品のテーマが丁寧に描かれていて物語が1冊で綺麗にまとまっているところも良かったです。
ヒロイン『柳戸希美』は、学園では問題児と見られており、学生にも教師にも腫れ物扱いで敬遠されています。そのため、彼女の本当の姿は『芦屋優太』にも読者にも当初はわかっていません。
そんな『柳戸希美』とスキップした時間の先で付き合うこととなっており、『芦屋優太』は彼女と正面から向き合い彼女の本当の姿、魅力的な面を知っていきます。
丁寧に『柳戸希美』と向き合い、『柳戸希美』のことを知っていく姿を丁寧に描くからこそ、その後『芦屋優太』が彼女に惹かれていく姿に共感ができましたし、クライマックスでの告白にカタルシスを感じられたのだと思います。
一人のヒロインを丁寧に描き、そのヒロインのことを好きになり付き合うまでの過程も丁寧に描かれていますので、恋愛方面の作品が好きな読者にはお勧めの作品だと思います。
知り合ってから付き合うまでを丁寧に描いていただけると、ヒロインにも主人公にも思い入れがでてくるので、付き合うところにカタルシスを感じて面白さが大きくなるんだと思います。
本作のテーマについて、私は「努力は決して無駄ではない。」という事と「相手ときちんと向き合うことの大切さ」だと思いました。
私がそう思った理由については、本作品を読めば誰も納得してくるんじゃないでしょうか。それくらい、上記テーマをど直球に丁寧に描いてくれています。
報われない努力を嫌い、安易に成果のみを求めていた『芦屋優太』に訪れた危機と、その危機を脱するに至った流れは作品のテーマに沿っていて納得のいく話の流れでした。
『芦屋優太』と『柳戸希美』が付き合い仲を育んでいくという物語としては綺麗に一冊でまとまっています。
続編もある様ですが、ここから物語をどう発展させていくのか気になりますね。巻毎にヒロインを増やしてく様な安直な展開や、スキップ能力が活かせていない展開にならない事を願いつつ、新刊が出ることを楽しみにしようと思います。
いや、本当にラブコメ的なライバルヒロインの登場とか求めていないので。『芦屋優太』と『柳戸希美』が仲良くラブってコメってをする展開を優先でお願いしたいです。
ネタバレありの感想
ここから下は『僕の知らないラブコメ 1巻』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
ヒロインの柳戸希美が可愛い
本作を面白い作品としている大きな要素は、ヒロインの『柳戸希美』が魅力的なキャラクターであることだと思います。
登場時には問題児として描かれていましたが、実際に問題児であるとは思えない荒唐無稽のエピソードでしたし、孤独であることを寂しく思っている描写もありましたから、本当はいい子であることに驚きはありませんでした。
まさにべたと言えばべたですが、その設定こそが王道でありヒロインを魅力的にする設定なので問題なしです!
他の人が知らない彼女の良いところ魅力的なところを自分だけが知っているという優越感を味わえますし、彼女の本当の姿を徐々に知ることができるという良さが出てきますからね。
『柳戸希美』が可愛くて、人として素晴らしいところがあるからこそ、『芦屋優太』が彼女に引かれていくところにも納得いきますし、ラストで彼女と向き合うために『芦屋優太』が必死になれた姿にも説得力があるのだと思います。
物語開始当初の『芦屋優太』でしたら、時間をスキップした先の世界で『柳戸希美』に嫌われていたとしても、仕方ないと諦めて嫌われたままだったでしょうね。
ですが、『芦屋優太』は付き合った理由が分からないながらも『柳戸希美』と共に過ごした時間で彼女の優しさ、彼女の可愛さ、彼女の真面目さを知ることで徐々に『柳戸希美』に徐々に惹かれていきます。
作品のテーマとか
ネタばれなしの感想にも書きましたが、本作のテーマは「努力は決して無駄ではない。」という事と「相手ときちんと向き合うことの大切さ」だと思っています。
「相手ときちんと向き合うことの大切さ」については、『柳戸希美』との恋愛面で描かれていたと思います。
『柳戸希美』という人間を風評のみで判断して忌避していたところ、『柳戸希美』を恐れ彼女のことを知ろうとする前にやり過ごそうとしていたところ、そして『柳戸希美』のことを好きになり彼女の想いを考えをきちんと知ろうとしたところに大事なことが全て詰まっていたと思います。
『芦屋優太』は相手と向き合わずに逃げることを避けることを考えてしまいました。その結果が2人の関係の破局につながりました。
嫌なことから逃げるということは、相手の負の感情に対して向き合わずに逃げるということだと思います。良い面だけ教授し嫌な面を避けるということは、『柳戸希美』の感情や想いを蔑ろにしていることと同じだと思います。
そんな相手から逃げるという意味で『芦屋優太』は時間をスキップする能力を使用していましたが、当然相手と向き合わないという逃げの行為に相応しい報いを受けます。
大切なものを喪失したと気づいたときに『芦屋優太』は逃げることをやめ、スキップした時間にも『柳戸希美』にもきちんと向き合うことを選びます。
『芦屋優太』が逃げることを止めた時、やっと2人の関係は始まったんだと思います。
『柳戸希美』ときちんと向き合えたからこそ、『柳戸希美』とまた付き合えることができましたし、これまで抱いていた「報われない努力は無駄である」という考えが間違いであったことに気づきました。
努力した主人公には報われてほしいですし、2人のデートの際の描写とか良かったのでキチンと向き合い新しく付き合いなおすというエンドは本当に良かったですよ。
偽りの関係のまま付き合いをし続けていたら、お互いの気持ちに齟齬がでたでしょうし、読者としての私も納得のいかない気持ちになっていたでしょうから。
それにしても、スキップされた時間の中でまさにカッコいい主人公然とした行動を起こした『芦屋優太』は物語中に描かれている『芦屋優太』とはまるで別人でしたね。
『柳戸希美』とキチンと向き合った『芦屋優太』の姿は作中で描かれていた無気力で怠惰な姿よりはましでしたが、スキップ中の行動ができるとはちょっと思えませんしね。
このカッコいい主人公然としている『芦屋優太』は、『芦屋優太』自身の本来の姿なのか?
それともまったくの別人であり、スキップ時間中という別世界の『芦屋優太』なのかが気になりますね。
続編では本来の『芦屋優太』とスキップ時間中の『芦屋優太』とで、『柳戸希美』を巡る争いが行われるのかもしれないですね。
『柳戸希美』が好きになった『芦屋優太』はどちらの『芦屋優太』なのかという内容で!
果たして私の予想が当たるのか、続編がちょっと楽しみになりましたよ。まあ、当たるとは思えませんが(笑)