『ゴブリンスレイヤー 6巻』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
あらすじ
「ゴブリンを退治したい、それ以外はしたくない、と言っていて……」
「一党は?」
「ないみたいです」
「馬鹿げている」
新たな冒険者希望者の集まる春。ゴブリン退治だけを希望する魔術師の少年が受付嬢を困らせていた。
一方、辺境の街から少し離れた場所に、冒険者訓練場が建設中。そこには、かつて村があったことを、ゴブリンスレイヤーは知っていた――。
「ゴブリンをぶっ殺すんだ! 」
少年魔術師らと一党を組むことになったゴブリンスレイヤーたちはゴブリンの跋扈する陵墓へと向かう。
蝸牛くも×神奈月昇が贈るダークファンタジー第6弾!
ネタバレなしの感想
今巻は、ゴブリンだけを倒すことに固執した少年魔術師を中心に据え、新人冒険者と熟練冒険者の対比、女神官の成長を描いた内容となっています。
女神官は、ゴブリンスレイヤーさん達と冒険を重ね経験を積んだことで、技量も判断力も新人冒険者の比ではなく、一人前の冒険者であるといえます。
『ゴブリンスレイヤー 1巻』の無知な新人冒険者の頃や、序盤のゴブリンスレイヤー達についていくのに必死だったころを見ているだけに、女神官の成長を感じると嬉しくなりますね。
今巻の中心人物である少年魔術師がゴブリンを憎み、固執する理由と冒険者としての夢が大きくとり上げられています。
このゴブリンを憎み固執する理由と冒険者としての夢の部分は、ゴブリンスレイヤーさんとの対比として上手く働いていたと思います。
自身と同じ道を歩みかけていた少年魔術師のことを放ってはおかずに導いたゴブリンスレイヤーさん。
そんなゴブリンスレイヤーさんの姿からは、かつての自分と同じようにさせたくないという思い、自分はまだ過去に縛られているという諦観が感じられます。
ゴブリンスレイヤーさんや女神官との冒険や交流の中で少年魔術師がどの様に考え、どの様な未来を目指そうとするのかが、今巻の見どころであったと思います。
私としましては、クライマックスで自分が求めた未来に向かい歩み始める少年魔術師の姿に胸があたたかくなりましたよ。
ゴブリンに固執するゴブリンスレイヤーさんの姿はこれまでと変わらずに描かれています。
ですが、ゴブリンスレイヤーさんの人間関係は『ゴブリンスレイヤー1巻の頃に比べて大きく変わっています。
ゴブリンスレイヤーさん一行は互いを思い行動をしていますし、周囲の冒険者もゴブリンスレイヤーさんを避けたりせず同じ冒険者仲間と認め交流する姿があります。
ゴブリンスレイヤーさんを始めとした男三人での飲み会は、飲み会での会話内容にも深く感じるものがありますし、共に酒を飲みかわせるほどの親交があることにも感じるものがありますね。
ゴブリンスレイヤーさんの存在が女神官や少年魔術師を変えたように、女神官を始めとした周囲の人間の存在がゴブリンスレイヤーさんを変えてきているのだなと改めて思います。
ゴブリンスレイヤーさんのかつての夢は叶うことはないかもしれませんが、夢ではなく今そこにある幸福を守るために戦うゴブリンスレイヤーさんはとても魅力的で硬派な主人公ですよ。
ネタバレありの感想
ここから下は『ゴブリンスレイヤー 6巻』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
少年魔術師
ゴブリンだけを殺す冒険者を目指していた少年魔術師。
そんな少年魔術師がゴブリンに固執する理由自体には大きな驚きはありませんでしたが、その対象者に対しては驚きがありました。
『ゴブリンスレイヤー 1巻』の冒頭でゴブリンに刺され苦しみ、ゴブリンスレイヤーさんに介錯された少女こそが、少年術死の姉であり彼がゴブリンに固執する理由でした。
共に姉を殺されゴブリンに固執したゴブリンスレイヤーさんとの対比としては、これ以上ないモチーフであるといえます。
似たような理由でゴブリンに固執することとなった二人でしたが、進んだ道や選んだ未来は異なります。
この違いはどこから来たのでしょうね?
その違いは、姉が犠牲になるのを目の前で見たか伝聞知ったかにあると考えています。
自身の目前で姉を失ったゴブリンスレイヤーさんの心中にはゴブリンへの憎しみと嫌悪は当然あったでしょうが、それと同じくらいに姉を救うことが出来なかった無力な自分への怒りや失意があったのでしょう。
だからこそ、ゴブリンスレイヤーさんはゴブリンを倒すために、自身がゴブリンよりも強くなるため、ゴブリンを倒すことに特化した強さを身に着けていったのだと思います。
ゴブリンスレイヤーさんが作中で述べた以下のセリフこそが、ゴブリンスレイヤーさんの生きざまを物語っています。
「教わるまで行動に移さないのなら、教わったところで何も変わらん」
ゴブリンを殺すために、ゴブリンより強くなるために、ゴブリンスレイヤーさんは行動を重ねてきたのだと分かるセリフです。
一方、少年魔術師がもつゴブリンへの固執は、姉の敵討ちもあるでしょうが、ゴブリンに殺された姉を持つと囃し立てられることへの反感もあったと思います
囃し立てられた恥をすすぐためという少年魔術師の利己的な感情故の行動でもあったと考えます。
だからこそ、ゴブリンを殺すために自分からどうするか考えるほどの真剣みはなく、他者に教えを乞うているのにもかかわらず居丈高な姿を見せていたのでしょう。
ゴブリンを殺すために何でもするという覚悟のなさをゴブリンスレイヤーさんには見抜かれていたのだと思います。
だからこそ、ゴブリンスレイヤーさんは少年魔術師にゴブリンを殺す術だけを教えたのではなく、冒険者として通用する知識や技術を授けたのでしょう。
「やりたい事を、やらせてやりたいものだ」という熟練冒険者の願いどおり、少年魔術師は第二のゴブリンスレイヤーではなく、冒険者としての未来を選びました。
復讐心や一時の激情に突き動かされ自身の冒険を始める前に死ぬということなく、冒険者としての夢を目指し一歩進み始めた少年魔術師の姿に胸があたたかくなり、さわやかな気持ちになれました。
自分と同じような経験をし、それでも自分と同じ道を辿らず冒険者としての夢を追うことになった少年魔術師。
そんな彼の姿をみたゴブリンスレイヤーさんが浮かべた笑みは、かつての自分も抱いていた冒険者の夢を目指す彼への憧憬から浮かんだ笑みなのかなと思いました。
ゴブリンスレイヤーさんの憧憬を壊さないためにも、願わくば少年魔術師と圃人の少女戦士の冒険に幸多からんことを願います。
続刊でちょろっとでもこの二人の冒険譚が描かれると嬉しいです。
ゴブリン
前巻に引き続き今巻も大活躍してくれたゴブリンたちです。
彼らが活躍すると犠牲者がひどいことになるのですが、作品的にゴブリンが活躍してくれないと物足りなく感じるので仕方ないですね。
しかもユニークなゴブリンが活躍するのではなく、一般ゴブリンが活躍し、ゴブリン種としての恐ろしさを描いてくれたので大満足です!
単体では弱いが集団では脅威であり、愚かではあるが狡猾な部分で攻めてくるというのがゴブリンの魅力ですよね。
冒険者訓練所建設地に対して狡猾な手法で襲い掛かるゴブリンたちの脅威と、その脅威への対応に苦慮する新人冒険者たちの姿は緊迫感があってよかったですよ。
集団対冒険者の戦いって結構他のファンタジー作品で描かれることが少ない気がしますね。
あと、ゴブリンたちの決着が水攻めって流石ゴブリンスレイヤーさんらしい手でしたわ。
『ゴブリンスレイヤー 1巻』のころから水攻めをしようとしてましたものね。
願いがかなってよかった。(笑)
ヒロインたち
今巻は女神官の成長もメインエピソードといえます。
そのため、女神官の活躍するシーンが多く、もう一人の主人公といえる程の脚光を浴びていたと思います。
作品での登場頻度や重要度から考えると女神官がメインヒロインといえるのかもしれないです。
今後も女神官が成長をしていき、ゴブリンスレイヤーさんと対等の冒険者と慣れた際には、ゴブリンスレイヤーさんの公私ともにパートナーとなっているのかもしれませんね。
私個人としては剣の乙女さんのヤンデレ気味なところが好きなので、恋愛面では剣の乙女さんを応援しているのですが、ちょっと剣の乙女さんがヒロインとなる可能性は少ないのだろうなあ。
剣の乙女さんが令嬢剣士がゴブリンスレイヤーさんに異性として好意が無いかを探る場面とか、本当に剣の乙女さんの重い愛情が感じられて大好きです。
作中の登場頻度や重要度では女神官が段違いですが、それでもヒロインレースの最有力候補は牛飼娘なのでしょうね。
少ない出番ながらゴブリンスレイヤーさんの正妻感を半端なく出す牛飼娘のヒロイン力は半端ないですよ。
ゴブリンスレイヤーさんのプライベートを最も知っている牛飼娘という高い壁を越えることが出来るヒロインが現れるかも注目です。
シリーズ感想の索引
ゴブリンスレイヤー 1巻 感想
ゴブリンスレイヤー 2巻 感想
ゴブリンスレイヤー 3巻 感想
ゴブリンスレイヤー 4巻 感想
ゴブリンスレイヤー 5巻 感想
ゴブリンスレイヤー 6巻 感想
ゴブリンスレイヤー 7巻 感想
ゴブリンスレイヤー 8巻 感想
ゴブリンスレイヤー 9巻 感想
ゴブリンスレイヤー 10巻 感想
ゴブリンスレイヤー 11巻 感想
ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン 1巻 感想
ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン 2巻 感想
ゴブリンスレイヤー 外伝2 鍔鳴の太刀 上 感想
お勧めの作品
ゴブリンスレイヤーの最新刊『ゴブリンスレイヤー8 (GA文庫)
』の発売日は、2018年10月11日です。
まさか表紙に剣の乙女さんが抜擢されるとは!
剣の乙女さんが好きな自分にとっては大変うれしい大抜擢ですよ。
新刊読めるのが楽しみです。