皇帝聖印の完成が現実のものとなった矢先、魔法師協会の牙が三勢力に向けられた!この暴挙に、テオは皇帝軍を編制し、協会の本拠地エーラムの制圧を決断するのだった。「明日は未来を決する戦いになる…!」そびえ立つ城壁に強力な射石砲を配した難攻不落の魔法都市に対し、シルーカの計略のもと、アレクシスの用兵が冴え渡り、マリーネの重装騎士団が破壊の聖印弾を放つ!協会もまた切り札として、巨人の王サイクロプスや吸血鬼の王を投入し、皇帝軍を蹂躙していく―混沌か、秩序か。協会の理念とテオの信念がぶつかり合う、その結末は!?
『グランクレスト戦記 10巻 始祖皇帝テオ』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
アニメ人気放送中、ゲーム化決定の人気シリーズ最新刊にして本編最終巻である『グランクレスト戦記 10巻』です。
アニメは1クールが終了してこれから2クール目に入りますが、この『グランクレスト戦記 10巻』の内容まで放送するのかな。
アニメでこのクライマックスの内容が描かれるのが楽しみですね。
ネタバレなしの感想
聖印の結合と世界を裏から操る魔法師組合との決着がつくシリーズ最終巻。
物語のクライマックスとなる最終巻とはいえ、盛り上がりに欠けたかなというのが読後の印象です。
世界の裏側で暗躍をしていた魔法師協会がラスボスとして立ちふさがりますが、これまで組織としての凄みや敵としての怖さや憎しみなどを抱けていたわけではないので達成感がさほど無かったのかなと。
魔法師協会がラスボスとして立ちふさがることや、その魔法師協会を倒すことに爽快感が薄かったため、手放しで面白いと思うほどの熱量をもてず、完結編の内容に絶賛が出来ませんでした。
物語としては綺麗にまとまっていますし、魔法師協会の敗因には納得がいく描写がされていますので読み手がとまること無く、『グランクレスト戦記 10巻』良作なのはまちがいありません。
ただ良作であるがゆえにクライマックスの盛り上がりにかける点が些か残念に感じてしまうのですよね。
『グランクレスト戦記』シリーズの転換点となったヴィラールを失う戦いに感じた熱さと興奮、その後再起したテオと覇道を征くミルザーとの決戦に感じた熱さと興奮、その2つに比べると最終巻のクライマックスは事後処理となってしまった気がしますね。
とまあ、期待していた分辛口になりすぎてしまいましたが、個々のシーンでは熱い部分もあり楽しむことは十分出来ていますよ。
ラシック対巨人の一戦には三国志演義での一騎打ちのような興奮を味わえましたし、働き蟻ペトルの持ち味を発揮するかのような攻城の一幕も楽しめました。
そしてアレクシスの指揮っぷりはこれまでのように鮮やかに華やかに描かれていて楽しめましたね。間違いなくアレクシスこそが、この時代屈指の名将ですね。
魔法師協会の敗因はアレクシスを軽視してしまったこと、そしてテオの存在を取るに足りないと考えて放置してしまったことなんでしょうな。
戦乱の時代が終わり秩序による統治の時代が訪れますが、これまで当たり前にあったものがなくなった世界での安定変革は大変なんでしょうね。
秩序時代の立役者でが健在のうちに安定できるか否かが勝負でしょう。。
テオとシルーカ、アレクシスとマリーネという2組のカップルと、彼らに従属していた心ある君主たちがいればきっと力なき人々が幸福を感じられる世界が訪れるのではないかと思います。
10巻にわたる長編作品の完結は、水野先生のベテラン作家としての力量と深遊先生のイラストの力で成し遂げた結果なのでしょうね。
両先生とも面白い作品をご提供いただき、ありがとうございました&お疲れ様でした。お二方の次回作にも期待しております。
外伝作品として統治時代の主要キャラのお話が描かれることも期待しています。
ネタバレありの感想
ここから下は『グランクレスト戦記 10巻 始祖皇帝テオ』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
魔法師協会の目的と敗因について
すみません。魔法師協会の理念は混沌が収まり秩序が築かれたときに現れる始原の巨人を抑えるためかと勝手に思ってしまっていました。
『グランクレスト戦記』はフォーセリアシリーズとは別のシリーズなのですから、同じクライマックスの展開になるわけが無かったですね(汗)
水野先生にファンタジー戦記を足すとついついロードスであったり、ソードワールドであったりを連想してしまう私の先入観のせいなので反省です。
魔法師協会の目的は、かつて発展し大きな繁栄を遂げながらも、その発展による負の面ともいえるエネルギーを用いた戦争による大破局を繰り返さないことにありました。
理念は立派なのですが、そのために用いた手法が理想主義であり夢想的とも言えて、知識や力ある人々以外に支持されないものでありました。
将来起こるかもしれない大破局を未然に防ぐために現在発生している災害を受け入れさせるという方針こそが魔法師協会の創立の理念であり活動の根拠であり、そしてクライマックスでの敗因になったと考えています。
未来を救うという理想を盾にして今そこに居る人々の苦しみを置き去りにしてしまったことこそが、魔法師協会が力なき人々に決して指示をされない理由だと思います。民意から乖離した独善を行うものは理想家ではなく、夢想家でしかないですからね。
将来起こるかもしれない破滅を避けるために世界の変化を拒び、そのため生じた歪みの被害すらも甘受するというのは言葉としては美しいですが、実際に被害を受けるのは魔法師ではない力なき人々ですからね。
被害を受けない側がいくら綺麗ごとを言ったとしても、実際被害を受ける側が納得するわけも受け入れるわけも無く、魔法師を支持することはありませんよ。
かつての世界が発展した挙句にその発展ゆえに滅びたのなら、発展を停滞させるのではなく滅びぬように発展させてこそ魔法師による賢人統治となったのでしょうね。
力なき人々のことを考え、現在の被害を抑えるという選択をしたテオたち君主連合が勝利するのも道理でした。
テオたちならば今そこに居る力なき人々の幸福を考えながらも、将来の破滅に備えながら世界を変革していくことも可能であると信頼できる気がします。
何故信頼できるかといえば、これまでの『グランクレスト戦記』シリーズでテオが決断してきた内容や、それを由と考え従い協力してきた君主たちの姿を見てきたからそう思えるのでしょうね。
リンについて
『グランクレスト戦記 10巻』で魔法師協会との決戦前に殉死とも言える死を遂げた彼女。
正直、作品を終わらせるための都合でいきなり重要な役割を割り当てられ死んだとしか思えず、彼女の死にカタルシスを感じることがなく淡々と次の展開に進んだ気すらします。
彼女自身が啓示を受け、自身の死を覚悟するに至る葛藤や悩みが描かれていたならば、私の抱いた感想もまた違ったものになったと思います。
物語登場時の明るかった彼女や、シルーカとテオを巡って言い争いという名のじゃれ合いをしている姿は好きだっただけに、彼女というキャラクターを深く掘り下げるような描写がもう少しあればなという風に正直思いました。
シリーズ感想
グランクレスト戦記 1巻 感想
グランクレスト戦記 8巻 感想
グランクレスト戦記 9巻 感想
グランクレスト戦記 10巻 感想
お勧めの作品
今回のお勧めは、こちら
大人気ファンタジー作品『オーバーロード12 聖王国の聖騎士 上』です。
「……弱き民に幸せを、誰も泣かない国を」を目指し美しき聖王女が出てきますよ。
彼女がグランクレスト戦記にでていればきっとテオの良き協力者になってくれたはずです。
そんな聖王女の活躍が見れる『オーバーロード12 聖王国の聖騎士 上』をお勧めいたします。
オーバーロード自体を未読でしたら、いまKindleで既刊10巻までが半額となっているので試しに手を出してみるのもいいかと思います。
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