竜歴509年。将来の食糧危機を見据え、“私”は新たに農耕と牧畜を始めることを決めた。とはいえ、異世界の動植物に知見がない“私”は、その方法を他種族から学ぶべく、人魚や半人半狼、蜥蜴人の留学生を迎えることに。しかし、価値観の異なる生徒たちとの授業は困難の連続だった!そして、“私”が留学生を世界中から集めたもう一つの理由、それは魔法学校を有名にすることだった。いつか、“彼女”がこの場所に迷わずに戻れるように。―「でも、今はいないじゃない」剣部の一族の少女・ユウキの赤い瞳が真っ直ぐに“私”を映し出す。これは、すべての“始まり”を創った竜の魔法使いの物語。
『始まりの魔法使い 2巻 言葉の時代』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
『始まりの魔法使い 3巻 文字の時代』の発売が間もなくだったことに気づき、慌てて読みました。
物語が面白くあっという間に読んでしまいましたので、もっと早くに読んでればよかったんとちょっと後悔です。
ただお蔭で3巻を待たずに読めるわけですから、これはこれで有りだったのかな。
ネタバレなしの感想
『始まりの魔法使い 1巻』から500年後、狩猟では村の人口を補えなくなってきたため、農耕牧畜に文明進歩させたが故に新たな脅威が現れてしまうというお話です。
魔法発展のため異種族の学生を集めての学校生活、アイを失った先生とその先生を想い慕うユウキとの触れ合いという要素も絡んできています。
『始まりの魔法使い』という作品を私は文明発展物として楽しんでいますが、異種族交流や恋愛物としても楽しめる良作になっていると思います。
先生が人間種族の文明発展にかかわる様になり、脆弱だった人間種族が闘う力を得て、狩猟では養えないほどの人口にまで増えてと発展を遂げてきました。
今回は、発展に寄与できる先生の力は限定的であることと、発展には必ずしも利点ばかりではないということが描かれていたのが良かったです。
主人公である先生が知識無双しすぎると大多数の人間を無価値なものとしてしまい興ざめですし、文明の発展を描こうと思えば功罪の罪の部分に触れないことは片手落ちですから。
今回の脅威は言葉こそ通じましたが、思いを通わせることが出来ない完全な外敵として描かれておりました。
外敵として厄介な存在であり、今後も先生や村人たちに祟ってきそうな後味の悪さも感じさせてくれます。
今後、村が発展し生活圏が広がっていけば今回の外敵のような思いが通じない相手ではなく、思いが通い合うはずの種族とも争いが起こるのかが気になりますね。
文明の発展、生活圏の拡大、文化の違いによるぶつかり合いをいかに描き、その争いをどう収め、先生への影響をどう描くのかといったところが凄い楽しみです。
いずれは先生の導きに反発する村人や、思いもよらぬ行動から騒動を起こす村人が出てきてくれないかなと、ちょっと期待しています。
恋愛面についても、人間からすれば永劫のときに近い時間を生きる先生と、先生からすれば僅かな時間しか生きることが出来ない人間のヒロインの想いの強さが描かれています。
この『始まりの魔法使い 2巻』のヒロインであるユウキの選択は、強い愛情にも思えますし、長い呪いの始まりにも思えますね。
相手へ変わらぬ想いを持ち続けることは、果たして幸せなのかどうなのか?と複雑に思いましたね。
先生のほうも竜として強大な力を持っていても、気持ちや精神は普通の人間とさほど変わらぬところが共感できます。
ただ、永劫の時を生きるのに精神が普通の人間と変わらないことが辛さですよね。愛した人たちは皆先に離れてしまいますからね。
早くアイに再開してほしいですし、傍らに寄り添うニーナの素晴らしさを再確認できました。
ネタバレありの感想
ここから下は『始まりの魔法使い 2巻 言葉の時代』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
文明の進歩とそれに伴う負の側面について
農耕牧畜まで文明が進歩したことで、その蓄えを狙う新たな脅威が出てきました。
それがこの『始まりの魔法使い2巻』の敵であり、シリーズ全般にわたって祟ってくるんじゃないかと思わせる脅威である鼠たちです。
言葉を使い意思疎通は可能でありますが、相互扶助や助け合うといった共存共栄が望めぬ異分子としての脅威でありました。
個々の力は弱い鼠たちでしたが、その繁殖能力と数の暴力は先生や主要キャラクターたちにとっても恐ろしい存在でしたね。
郡体生物であり少数が生き残っていれば種族として再建が可能というところが大きな強みです。
彼らを根絶やしにする手段があらず、鼠の特性として繁栄のためには強奪を辞さずという点から今後も先生たちの敵として現れるのではないかと思います。
文明の進歩により農耕が行われ、その収穫物で村人が増えるというメリットだけではなく、その収穫物を狙う存在が現れるというデメリットが描かれていたのが良かったです。
今回の脅威はまったく相容れない存在でありましたが、さらに村人の数が増加し生活圏が広がっていくことで、友好的であった多種族とのぶつかり合い、いずれは種族間戦争になるのかなと漠然と考えています。
先生が良かれと思って助言して文明が発展したことにより、大きな悲劇が発生したときに先生の精神が耐えられるのかが気になります。
もしかすると鼠という完全に相容れない外敵を作ったことで、その他の種族が団結し先生を中心とした共同体になるのかもしれないですね。
文明と文化の発展、それに伴う争いの発生と争いの規模の拡大は、文明発展ものの醍醐味だと思いますので凄く楽しみです。
恋愛面について
生まれ代わりに再会しようと永遠の愛を誓った先生とアイ。
この二人の強い愛情にその他のヒロインたちがどう割り込んでいくのかなと思っていましたが、結構簡単に割り込めたなという印象です。
アイ本人の勧めもあったとはいえ、先生とユウキの想いが通じるまでが早すぎて、私はその想いに共感できなかったなあ。
ユウキの方が持っていた先生への淡い恋心が、種族差による寿命の違いから葛藤に変わり、それでも先生への想いを変えられず愛情に変わったという点は良かったですよ。
ただ先生の方が気持ち帰るのが軽すぎるように思えてなあ。もうちょっとアイへの変わらぬ想いと、それでもユウキに対する意識が生まれて、それが抑えられなくなってくるような描写がほしかったなと。
あまりに早変わりしたように思えて、ユウキへの想いもアイへの想いも軽くなってしまったんじゃないかなって私には見えてしまいました。
あと記憶の受け継ぎは、受け継いだ方への意思の乗っ取りや洗脳にも思えて怖かったですね。
シリーズ感想
お勧めの作品
文明レベルがどこまで上がるのか?
進歩したことで新たな問題が発生するのか?
また嫁が増えるのかという所を楽しみにして読もうと思います。
KADOKAWA (2018-02-20)
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