竜歴637年。研究機関として大学を設立した“私”は、その一歩として、研究成果を後世に残すための紙作りに挑んだ。そして、世界で初めてとなる日記帳を物忘れの多い人魚のリンに贈った。「書いたこと自体を忘れないようにね」「うん。大丈夫…多分」それは有史の時代の始まり。紙と文字は、知恵と、そして―記憶を未来に伝えていくことになる。貨幣や交通が急速に整備されていく中、他の「始まりの魔法使い」を始祖とする村の存在を知った“私”は、転生したアイの可能性を感じて、リンと一緒に調査に赴くが―!?これは、すべての“始まり”を創った竜の魔法使いの物語。
『始まりの魔法使い 3巻文字の時代』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
『始まりの魔法使い 2巻』を読み終えた勢いで、『始まりの魔法使い 3巻』も読みました。
『始まりの魔法使い 3巻』も面白く、クオリティが高いですね。
これまでは個人的に文明発展物として楽しんでいましたが、今巻は恋愛ものとしての楽しみの方が勝っているように感じました。
各巻毎のヒロインたちの魅力も高いですし、シリーズメインヒロインの魅力も高いです。
その魅力の高さは、石之宮 カント先生によるヒロインたちの想いの描写の巧みさと、ファルまろ先生の描く可憐なヒロインたちのイラストの力だと思います。
ファルまろ先生のイラストは作品にマッチしていますね!
ヒロインたちばかりではなく、竜やリザードマンも魅力的に描かれていますし、ファルまろ先生をイラストに抜擢した時点で勝ち確定といったところじゃないでしょうか。
ネタバレなしの感想
前巻『始まりの魔法使い 2巻』に引き続き、緩やかに村を発展させていく様子を中心とした『始まりの魔法使い 3巻』です。
今巻では技術と知識の継承を目的とした紙の発明と動力機関を得るために水車の開発に挑みます。
限りなく紙に近い代替品となる皮素材を見つけたことで、先生たちは紙の開発を成功させます。
紙を開発できたことにより、紙に文字を記載することでの技術や知識の継承を行え、村がより発展していくことになります。
そして個人の記憶や想いを本にして残せるようになったことこそが、『始まりの魔法使い 3巻』のクライマックスの盛り上がりに欠かせない材料となっています。
先生とヒロイン勢の恋愛は寿命の違いにより必ず別離が訪れます。
それでもヒロインたちはそれぞれ異なる手段ですが記憶と想いとを繋ぎ、別離を永遠の別れではなくいずれ訪れる再会のときを考えているところに愛情の強さを感じますね。
一方、水車の開発のほうは一筋縄ではいきませんでした。
こちらは現代世界とは違うこの世界の成り立ちという問題であり、今後も先生の知識を活用できるか否かという大きな問題にも発展しています。
先生個人の知識を導きとして発展してきた世界でしたが、発展に伴い先生個人の知識と能力では限界が見え始めてきました。
この世界の住人たち自身の力で発展の道を切り開き始めたとき、先生の役割が導き手から見守り役に代わっていくかという変遷の時期を迎えているのかもしれないです。
この世界の住人たちも技術の発展に伴い、貧富の差、身分の差、種族の差という違いや区別が出てき始めており、その変化を先生がどう見守っていくのかも興味深いですね。
また、先生以外の「始まりの魔法使い」の存在に興味がわきますし、『始まりの魔法使い 2巻』で学生として学んでいた彼や彼女らのその後の姿が見られて懐かしく思えますし、巻を重ねるごとに面白さの幅が広がっていきますね。
次の時代に移ったとき各キャラクターたちが時代の中でどのように生きて選択を重ねるのか?
先生以外の「始まりの魔法使い」に導かれた存在が同かかわってくるのか、その「始まりの魔法使い」の正体は何者なのか?といったところもすごく楽しみです。
次巻『始まりの魔法使い 4巻』も楽しみにしています。
ネタバレありの感想
ここから下は『始まりの魔法使い 3巻文字の時代』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
始まりの魔法使いについて
農「始まりの魔法使い」が残した絵につけられた名前「約束の地」「帰るべき場所」「先生の家」を考えるとアイが残した絵のようにも思えます。
ただ私は「始まりの魔法使い」はアイではないと考えています。
その理由としては「始まりの魔法使い」の性別は男であることと、彼が知識を授けた人間の種族が異種族をバケモノと呼んでいること、魔法を行使できるのに先生の下に帰らないことです。
先生と別離の前にアイがみせたの先生へ想いの強さを考えれば、男性に生まれ変わるのだけは無いんじゃないかと思えるのですよね。
そう考えると「始まりの魔法使い」は、生まれ変わったアイの身近にいて言葉や魔法を習った男であり、先生にとってみれば孫でしに当たる存在なのかなって思います。
彼もまた生まれ変わりをするのか?今後のストーリーにかかわってくるのかも気になってきますね。
それでは何故アイが先生の元へ戻ってこなかったのかといわれると、私自身が納得のいく答えを出せないもどかしさ感じますね。
記憶をすべて持って転生することの難しさなのか、転生をするたびに大切な記憶が欠けていくのか、生まれ変わったアイの記憶は万全のものではないんじゃと思えます。
アイが転生しているかもしれないことに始めて言及されましたので、きっと次巻『始まりの魔法使い 2巻』で語られるのではないか期待しています。
リンについて
竜になりたいと願ったリンの本当の願いは、決して竜になりたいことではありませんでした。
先生と同じ存在になりたいという願いこそがリンの本当の願いであり、先生への恋心の表れでした。
リンの淡い恋心に気づかない鈍さは先生らしいですね。複数ヒロインものの作品の弊害とはいえ、その鈍さは罪すぎますね。
一方でシグがリン本人が気づいていなかった願い本質に気づいていたのも彼らの絆を感じてよかったです。
リンの先生への想いの強さ故に、先生と同じ人間になろうと自身の声と引き換えに足を手に入れ、また自身の過去と未来を投げ捨てて先生の願いを叶えようとしました。
リンの行為は、リン自身の望みそのものであり本人がその行為に悔いることは無いのでしょうが、残された周りの人にとっては苦しいですね。
これまでの積み重ねた想いや絆を投げ打ち、自分自身という存在が無くなってしまうことと同意と分かっても魔法を使ったのは、好きな人のためにできることを全力でしたいとい愛情以外の何ものでもないです。
リンの行為は、彼女自身にとっても本当に良かったのかは読者視点では疑問に思う部分もあります。
ですが、リンが残した日記に書かれた内容を見た限りでは、リンにとっては最良の行為であり、彼女自身は悔いることはなくむしろ幸せに思える行為だったのでしょうね。
愛する人のために全てをささげたリンが残した想いは、先生が開発した紙の技術で作られた日記によって、もう一人のリンに受け継がれていきました。
想いを受け継ぐということ、命は尽きても想いはつながっていくこと、それが『始まりの魔法使い』のテーマなのかなと改めて思いました。
まあ、それはそれとしてリンの想いも先生に伝わって、早く先生の嫁リストにリンも加わってほしいですわ。
技術の発展について
紙の開発は『始まりの魔法使い 3巻』のクライマックスの盛り上がりに欠かせない材料であり、人々の記憶と想い、技術を継承をするために必須の発明です。
記憶と想いの継承についてはリンの項目で書きましたので割愛します。
技術の継承については、多数の人間の技術が多数の人間に広め伝えることが今までの口伝に比べてはるかに容易となるため、技術の発展が加速することが想像できます。
『始まりの魔法使い 3巻』萌芽が見られた貨幣経済も、農耕と畜産の技術の発展することでより進み、貧富の差が大きくなっていくことでしょう。
貧富の差から生じる諍いや、技術の発展に伴う生活圏の拡大で生じる争いなどが起こりそうな雰囲気を感じ、これまでの牧歌的な村の生活とは一線を画すことになるのかもしれないですね。
そういった諍いや争いが生じたとき、これまで村人を導いてきた先生はどのように感じ、どのような行動をするかも楽しみです。
また水車の開発の際に分かった事実があります。
先生が転生前に学んでいた科学技術をこのまま転生後の世界で使用することができないということは、転生後の世界独自の発展の道があることと先生がこのまま導き手ではいられないということになると考えています。
動力機関自体は魔法の力を使い代替することは可能に思えますが、先生の知識を使えず導き手として直接技術を教えられなくなるということは先生の権威が一段落ちる可能性がでてきます。
村人が技術開発や種族として進むべき方向を自ら定めるということは、種族としての成長ともいえますが先生という枷がなくなったとき、彼らの力が暴走しないかが不安になりますね。
長寿のエルフたちよりも戦闘能力が高く、繁殖力も強い人間種族が争いを始めたとき、先生は自らの教え子であり息子たちともいえる人間種族を竜としての力でとめることになるのか?という点も興味深いです。
技術の発展のメリットがこれまでメインで描かれてきましたが、そろそろデメリットといいますか府の面も現れてくるんじゃないかなと期待しています。
シリーズ感想
お勧めの作品
お勧めの作品は『喧嘩稼業(8) (ヤングマガジンコミックス)』です。
『始まりの魔法使い 3巻』で最も心に印象を残したシーン、記憶を失ったリンが以前の自分が書いた日記を読み、かつて抱いていた愛情のかけらを取り戻す場面。
その場面で『喧嘩稼業』の登場キャラ「櫻井裕章」を思い出してしまい感動が台無しになってしまいましたよ(涙)
櫻井裕章のキャラクターの強さと面白さ、入江文学との死闘の面白さも別格ですので、興味を持っていただければ『喧嘩稼業』もよんでいただければなと(笑)
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