『虚構推理』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
あらすじ
巨大な鉄骨を手に街を徘徊するアイドルの都市伝説、鋼人七瀬。
人の身ながら、妖怪からもめ事の仲裁や解決を頼まれる『知恵の神』となった岩永琴子と、とある妖怪の肉を食べたことにより、異能の力を手に入れた大学院生の九郎が、この怪異に立ち向かう。その方法とは、合理的な虚構の推理で都市伝説を滅する荒技で!?
驚きたければこれを読め――本格ミステリ大賞受賞の傑作推理!
ネタバレなしの感想
妖怪たちの調停役として知恵の神となった岩永琴子が人に害意を振るう怪異「鋼人七瀬」を倒す物語です。
こう書くと良くある伝奇小説にも思えますが、『虚構推理』は怪異を倒す手段が特異であります。
虚構から生まれ真実の存在となった「鋼人七瀬」、真実となった虚構を理を伴た別の虚構を用いて打倒すというところが本当に面白かった。
真実となった虚構の存在を倒すための虚構の推理。
その虚構の推理を土台とした人を惹きつける別の虚構の物語。
その物語を受け入れ真実となった虚構を捨てる多数の名もなき人々の自覚のない悪意。
真実と虚構が目まぐるしく入れ替わり二転三転する事態とその成り行きは、とても興味深く読んでいてページをめくる手が早まりました。
虚構の推理を複数用意した理由と最後に出した虚構の推理が受け入れられていく流れは、伏せた札を一気に解放しての大逆転であり大いにカタルシスを味わうことが出来ました。
虚構対虚構の対決の舞台をネット上としたところも、虚構を受け入れ新たな怪異を生み出す舞台として機能していたと感じます。
ネット上の反応が素直に思えたり、物証もないのに流れが傾きすぎじゃと若干違和感を覚えるかもしれません。
ですが、読んでいる時にはそんな些細なことなど気にさせないなど吹き飛ばす物語の勢いと面白さがあります。
物語を読み終えればタイトルとなっている『虚構推理』に納得すること間違いなしです。
妖怪や怪異を活かしたミステリー作品として大変楽しく読ませていただきましたよ。
ミステリー部分も面白いし大好きなのですが、主要キャラクターの2人も大好きになりました。
主人公であり探偵役が、妖怪たちの調停役として知恵の神となった岩永琴子です。
西洋人形のような外見で一眼一足の美少女なのですが本当にあけすけに語るところがギャップとなって面白いです。
「九郎先輩のバナナを食べさせていただければ」とか、「破瓜の痛みの方が」とか、どんなビッチキャラなのかと。
でも、明け透けな発言がキャラクターとしての下品さにつながっていないのですよね。
問題解決時、論理的な虚構を構築していく様は流石は知恵の神と感じせますし、
怪異と向き合った時の泰然とした姿にただ人を超越したものを感じさせるからかもしれません。
そんな探偵役の岩永琴子の相棒であり、恋人であるのが桜川九郎です。
琴子の好意を迷惑がり、彼女に無碍な言葉を返すところ良いキャラクターしています。
岩永琴子という一癖も二癖もある人物の恋人やパートナーになるのなら、桜川九郎位の反応が正しいと思わされます。
邪険にされても気にせず好意を伝えたり、邪険にされたらされた分だけ反撃する岩永琴子の姿が面白いですからね。
それに、琴子にみせる言動は厳しいものがありながらも、その根底には琴子を想う気持ちが感じられます。
本当、琴子と九郎のやりとりはずっと見ていたいくらいですよ。
ミステリー部分が面白く、探偵と助手の関係も魅力的であるとか、大勝利間違いなしの作品です。
本当に久々に面白いミステリーが読めたので多くの人にも読んで貰いたいです。
私も来年一月からのアニメも観ますし、コミック版の虚構推理も読みます。
でも、アニメ化に伴いカバーデザインが変わってしまっていることだけは認められない。
書籍を売るためにもアニメ版のデザインに寄せないといけないのは理解できます。
でも、変更前のデザインが至高だっただけに変えないでほしかった。
ネタバレありの感想
ここから下は『虚構推理』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
鋼人七瀬事件の黒幕について
「鋼人七瀬」という摂理に反して誕生した怪異を消滅させるということが当初からの琴子の目的です。
作品中盤において「鋼人七瀬」よる殺人が発生しますが、もともと人間に対して被害があるから来たというわけではありません。
あくまで妖怪たちの依頼があり「鋼人七瀬」が摂理に反して誕生したから対応に来たというのが琴子の根幹にあります。
今回の怪異「鋼人七瀬」は、桜川六花が意図して作り上げた摂理に反した存在であるから琴子が対処しましたが
これが自然の摂理によって誕生した怪異であったら、たとえ被害が今回の事件より大きくても琴子が対処することはなかった気がします。
琴子は人間ではありますが、人間の範疇には収まらない独自のルールや摂理を持っているのでしょう。
今回の事件の黒幕であり、「鋼人七瀬」を意図して生み出した桜川六花。
桜川六花は九朗と同じく「人魚」と「件」を食し身に取り込んだことで不死の予言を行える存在であり、人間の範疇外となった生物です。
その不自然な状態を解消し手人間に戻ることが目的であり、そこに至るための手段が自身にとって都合のいい神や怪異を生み出すことです。
彼女は自身の目的を達成するために今後も自然の摂理に反し、自らが望む怪異や神を生み出そうとするでしょう。
当然、自然の摂理を重んじる琴子とぶつかることが必至でしょうし、桜川六花との決着が作品全体のラストになるのかもしれないです。
ただ、彼女の目的を妨害するということは必然的に九朗先輩も普通の人間に戻れないままということなんですよね。
その状態を九朗先輩は本当に受け入れているのかというのも気になります。
逆に琴子のほうは九朗先輩が普通の人間に戻っても好意が変わらないのかも気になります。
琴子と九朗の関係について
琴子と九朗の関係性は面白いですね。
琴子が九朗に一目ぼれしてからずっと琴子の恋心が揺るがず、九朗を落とす機会を狙い続けているとかすごいし、
そんな琴子の想いに応えたとは思えぬような九朗の態度も興味深かったです。
琴子が九朗と出会ったのが15歳の時、九朗が紗季と別れたと知り接触したのが17歳の時、「鋼人七瀬」事件が19歳の時です。
琴子が17歳の時から19歳になるまでの期間がとても気になるんですよね。
あんなにも琴子の気持ちを訝しげかつ迷惑がっていた九朗をどうやって琴子が落としたのかなとか、
なんだかんだお付き合いしてからは琴子が破瓜の痛みを知るくらいの関係にどう発展していったのかなとか凄い気になりますよ。
「鋼人七瀬」事件時の琴子と九朗の関係を見ると、琴子へ辛辣な言葉を返したりはしますが九朗がとても琴子を大切にしている描写がありますからね。
琴子は九朗のことを朴念仁とか愛が足りないとこき下ろしていますが、九朗の愛情は大きいです。
そもそも琴子の前から黙って姿を消したのも、琴子のメールに返事を出さなかったのも、琴子を危険な目に合わせないようにするためですからね。
九朗の方は言葉ではそっけないですが、その分行動や琴子に見えないところであらわにする琴子への愛情が大きくてエモいですよ。
逆に琴子の方は言葉やモノローグでは九朗への愛情や好意のアピールが大きい割に、九朗を大事にしている描写が少ない気がしますね。
まあ、九朗さんが「人魚」の肉を取り込み不死の存在であるからという点もありますし、信頼しているからこそという部分もあるんでしょう。
九朗のツンデレな言動、それにやられっぱなしにならずに言葉や行動でやり返す琴子の関係が見ていてとても楽しかったです。
だからこそ今の関係に至るようになった経緯を凄いみたいんですよね。
『虚構推理短編集 岩永琴子の出現』『虚構推理 スリーピング・マーダー』でも17歳から19歳に至るまでは描かれていないみたいです。
アニメ化に伴って虚構推理の新作が出て欲しいですし、その際には18歳の頃の琴子と九朗の姿が見たいです。
虚構対虚構のレスバトル
虚構より生じて真実の存在となった怪異「鋼人七瀬」、その真実を虚構に戻すために虚構の推理を真実と認識させた虚構バトル。
そのバトルの舞台はまとめサイトの掲示板でのレスバトル。
読んでいるときは琴子が提示した虚構推理と、その推理の矛盾点をつつき論破する流れが面白く感じました。
でも、この長文レスバトルを漫画やアニメでどう表現しているのか気になりました。
ラストバトルの一番盛り上がるところが掲示板でのレスバトルだし、琴子の虚構推理が論破されると九朗先輩が劣勢になるし、
どんな風に漫画として絵に落とし込んだのだろうなと不思議に感じましたよ。
シリーズ感想の索引
お勧めの作品
『虚構推理』の様なロジックを積み上げていくミステリーとして連想したのが西澤保彦先生のタック&タカチシリーズでした。
こちらのシリーズはロジックを積み上げていくことで真実に辿りつくミステリーです。
到達する先が虚構なのか真実なのかの違いはありますが、ロジックを積み上げて結末に至った時のカタルシスは同質なものを味わえるはずです。
タック&タカチシリーズ現状の最新作は『悪魔を憐れむ (幻冬舎文庫)』です。
タック&タカチシリーズも新作でてくれないかな。
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