『魔女軍師シズク』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
感想の草案を書いてから一週間ほど間が空いてしまいました。
夏休みだしいつでも感想あげられると思っていたのに、いつでもできると思うと逆にだらけちゃいますね。
鉄は熱いうちに打てじゃないですけど、読み終えたらすぐ感想あげないとモチベーションを保てないですね。反省です。
あらすじ
歴史好きの女子高生が異世界で軍師になる! ? 絶体絶命の状況をひっくり返す一手とは?
長谷川雫は、史学研究会に属し、いわゆる歴女であること以外は
どこにでもいる普通の女子高生として生活を送っていた。
猫を被り、同級生とのくだらないお喋りに興じる日々の中、
才色兼備で誰にも媚びない孤高の存在、
藤堂朱と放課後に交わす一時の逢瀬だけが雫の楽しみだった。
しかし、藤堂は意味深な言葉を残して、何の前触れもなく消えてしまう。
突然消えた藤堂に憤っていると、自宅への帰り道で不思議な声に呼びかけられた。
雫はその声が藤堂の迎えだと感じ、「理想郷」への旅立ちを受け入れる。
時は流れ、異世界に導かれた雫は、田舎の村で異邦人としてこき使われる屈辱に耐え、
どうにか日々を過ごして逃走のチャンスを窺っていた。
そんなある日、村を大量の兵士が襲い、火を放たれてしまう。
火事場泥棒のチャンスだと、雫は惨状の中を飛び出していくのだが――。
ネタバレなしの感想
今巻の内容
異世界へ転移された主人公のシズクが、歴女として得ていた歴史上の戦略・戦術の知識を活かして、軍師として活躍するというお話です。
異世界へ転移させられた際、シズクには特殊な能力やアイテムが授けられていませんし、転移先の言語すら分からないというハードモードです。
そんな厳しい状況に追い込められたシズクがそれでもただ悲観するだけではなく、自身の生存のために現状で出来ること探し計算して行動する様には逞しさを感じましたし、今後の展開にワクワクしましたね。
シズクの賢さは情報を得ることだけではなく、取得した情報を分析し、その情報を生存するための知識として活かすところにあるといえます。
自分が利用されているという事実は、それだけではただの情報に過ぎないです。
その情報を元に相手の性格、周りの状況を分析して、相手の思惑に乗りながらも言語を覚えていく結果をもたらしたことこそ、シズクの冷静な計算高さがあると思います。
まさに軍師や参謀となるにふさわしい素質でありますね。
そんな計算高さをみせてくれたシズクですが、考えるだけではなく冷静に計算で導き出した策謀を自ら実践できるところが、彼女のもう一つの特異性であります。
自分が生き残るためなら他者を切り捨てること、利用することにためらいを覚えないという点です。
恩義はないとはいえ同年代の女性を、助けを求める相手を自分の身代わりとするために傷つける、見捨てるといったことは常人にはできないですよ。
この点は物語の冒頭から語られるシズクの他者への共感性の低さが顕著に表れている部分だと思います。
物語序盤からシズクの特異性が描かれていますので、自己保身が強く利己的であり、共感性が低い彼女らしい生存戦略であると思えます。
だから、シズクというキャラクターにブレは感じませんでした。
なんだかんだと理由をつけてで弱者を助けることが多い主人公が、弱者を見捨てるだけではなく傷つけ利用するというのは、シズクというキャラクターの特異性であり魅力な点にも受け取れます。
このようにシズクというキャラクターの特異性を物語序盤から中盤にかけて丁寧に描かれているため、彼女のキャラクター性を深く知り興味を持つことができました。
その一方で、物語の主題である”魔女軍師”の部分の描写が少なかったのが残念極まりないです。
シズクが歴女としての知識”過去の名将の戦術”を利用して味方陣営を勝利に導くというところこそが、戦記物のメインであり盛り上がり場面だと思いますが、この部分の内容が少なく薄かったです。
知識としてもつ”名戦術”と異世界の現実である戦場の違いの摺合せや、シズクの想定道理に動かない敵と味方、戦況への焦りといった部分をもっとページを割いて戦争描写を盛り上げて欲しかったと個人的に思います。
上記の不満点についてはネタバレありの感想の方で触れようと思います。
とはいえ、主人公シズクのキャラクターは独特でありますし、今後は軍師として戦況を一変させる立場としての活躍も楽しみではあります。
続刊では敵側にいるであろう彼女とどのように戦い、どのように再会するのかが描かれるであるでしょうし、続刊を読める時が楽しみです。
ただ気になる点として、タイトルにナンバリングが振られていない点と”魔女軍師シズク 完”とあることなんですよね。
続編出て欲しいな。
個人的な評価
面白く読めましたが、絶賛するにはちょっと物足りないという想いです。
もっと面白くなる要素は色々とあっただけに勿体ないなという感想です。
シズクが異世界転移するまで、転移してから軍師になり戦場で活躍するまでが丁寧に書かれています。
その丁寧に描いた部分が良い点でも悪い点でもありました。
丁寧に描かれている分、シズクの性格や言動、目的などは腑に落ちるようになるのですが、見せ場である戦場での活躍の場面に至るまでが長いです。
そして戦場で発揮されるシズク活躍も内容が薄いように感じてしまいました。
ページの半分くらいはシズクが戦場で悪戦苦闘するさまと、シズクの献策による逆襲劇とした方がカタルシスが有った気がします。
良かった点
■シズクのキャラクターが良かった点
自己保身、利己的で他者を蹴落とすことを躊躇わない、一歩間違えればクズといえる女主人公とかレアですし、キャラ立ちしていますね。
歴女の知識を活かして戦場を変えていけるのか?という点でも興味深いキャラクターです。
悪かった点
■戦場描写が薄かった点
タイトルに魔女軍師とありますし、もっと戦場で活躍するさまや翻弄される様を見たかったです。
ネタバレありの感想
ここから下は『魔女軍師シズク』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
主人公 シズクについて
ネタバレなしの感想でも書きましたが、シズクは魅力的な主人公であります。
物語序盤の学園生活時のクラスメイトへの感情や、移転直後の村でのモノローグは、中々に他者へ対する毒が凄かったですね。
他者への評価の辛辣さと、自己保身が強く利己的なところは主人公タイプというより主人公に逆恨みをして破滅する側のキャラクターに近いものを感じましたよ。
そんな一風変わったシズクのキャラクターは面白くて好きです。
だからこそ、後半に発生した急激な恋愛要素には違和感がありましたね。
利己的で自己保身優先、藤堂さん以外の人間に興味がなかったはずのシズクさんが急にコンラートを異性として意識してときめいている様は、急に別人になったかと思いました。
戦場での窮地を救われるとか、何かしらの劇的な出来事でもあった方が自然だったんじゃないかな。
もしくはコンラートを利用しているつもりが傍目から見て恋心が透けて見えるとか。
やっぱり急に入れられた恋愛要素はいらなかったなあ。
あと本編の内容にはあまり関係ないのですが
シズクさん自己評価で自分はクラス上位カーストでも2番か3番目の要旨をしているとしていました。
でも、異世界に転移した直後から村が襲撃されるまでは性的に危険な目に合っていないんですよね。
見目麗しい女性が農奴としてしか扱われていないって、どういうことなんだ異世界民!!
転移した直後から異世界民と無理やり結婚させられるまでの1年間で成長するまで、シズクさんの身体は成人女性とは思われなかったってことなのかしら?
とすると、シズクさんは幼児体型スレンダー体形ってことなのかもね。
それとちょくちょくモノローグで出てくる単語に、シズクさんの中身は女子高生ではなくおっさん説も提唱しておこうかと思います
戦争描写について
騎兵の優位である機動力と破壊力を活かした長距離奇襲戦法で劣勢から逆転するという展開は悪くなかったです。
シズクが転移前に書物から得ていた”李靖”についての歴史的知識を活かすという形で歴女という個性をみせるのはシズクの特殊性としてもGoodです。
ですが、その優れたシズクの献策を受け入れられるまでの描写が無いことと戦場描写の薄さが魅力を削ってしまっているなと思いました。
どんなに優れた戦略や戦術であったとしても、その献策が受け入れられなければどうしようもありません。
特に立案者であるシズクには戦場での功績や実績など皆無なのですから尚更です。
ですので、シズクの献策が受け入れられていく描写こそ開戦前の盛り上がりポイントの一つのはずだと思うのですよ。
献策が受け入れられていく描写が省かれてしまうと盛り上がりに欠けますし、苦労して献策した通りの結果が得られたというカタルシスも損なわれてしまい勿体ないなと思いました。
シズクの特異性に気付いているコンラートの助力を得て献策が受け入れられていく描写が欲しかったです。
あと、実際の戦場描写が薄く戦況が分かりづらかったのが盛り上がりに水を差してしまったかなとも思いましたね
襲撃してくる敵軍の描写が少なく、敵軍優位の状況とシズクの献策による敵軍劣勢の場面が描かれていないのも、逆転のカタルシスが薄くなった理由じゃないかなと思いました。
そのためか、敗軍一歩手前で献策通りの後方からの騎兵奇襲が決まっての逆転という盛り上がるはずの場面が、淡々と進行してしまったように感じてしまいました。
不満ばかりあげていますが、歴史的な知識で逆転って戦記物が好きな読者には受けると思うのですよ。
その要素を続巻では巧く活かしてほしいです。
シリーズ感想の索引
お勧めの作品
今回のお勧めは『天才王子の赤字国家再生術 ~そうだ、売国しよう~ (GA文庫)』です
戦記物であり勘違いコメディーの作品であります。
どちらかというと指導者として内政寄りのモノを期待してしまいますが、この巻は戦争描写がメインです。
ノリは軽いですが主人公は優秀ですし、主人公と補佐役の関係性がとても大好きなお気に入りの作品です。
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