このくらいは「普通」ですよね?
監獄育ちのエルマは恩赦によりシャバに「釈放」させられる。
王宮付き侍女となったエルマは、母の言いつけ通り「普通」の少女を目指すが、
その常識外れな能力や行動は、やがて王宮全体を揺るがしていく。四人が一日かけて完遂する仕事を午前中で終わらせ、
紅茶を淹れれば、天から祝福される美味となり、
巨大マグロを一太刀で解体し、
回復魔法より難解な外科手術もお手の物。
――これくらいシャバでも「普通」ですよね?「普通」を目指すわけあり少女の、うっかりシャバ無双物語、開幕!
『シャバの「普通」は難しい 1巻』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
『オーバーロード 13巻 聖王国の聖騎士 下』の巻末にあった宣伝に惹かれて購入しました。
オーバーロードの新刊の巻末に『幼女戦記』、『ログホライズン』と並んで載せているということは、今一押しの作品なのだろうな考えましたよ。
果たして先行ヒット作品に並んで広告が載るに相応しいかとなぜか上から目線で考えて読んでいましたが、いやいや本当に面白い作品でした!
ネタバレなしの感想
監獄生まれ、監獄育ちの少女である主人公 エルマが母の言いつけである「普通の女の子になる」を守るために、王宮の侍女となり日々奮闘する物語です。
エルマは生まれも育ちも監獄であったため、監獄の外にある世の中の普通が理解できず、普通を目指しながらも普通で済ますことが出来ないというギャップがコメディとして面白く描かれています。
しかも世の中の普通が分からないというだけではなく、監獄の中で母や凄腕の囚人たちに鍛えられていますため、エルマが考える普通の行為が決して普通の範疇に治まらず大きな騒動になるというのがとても楽しいです。
エルマが次には一体どんな騒動を起こすのかと思うと楽しみになり、次々にページをめくってしまいましたよ。
作者である中村 颯希先生の作風のお蔭か、次々と起こる騒動が軽快に描かれているため、読者である私の頭の中に物語が軽快に入ってきました。
また作中で描写や展開に違和感を覚えるところもなく、そのため本を読むことを中断すること無く最後まで通して読むことが出来ましたよ。
個人的にこの作品の好きなところは、エルマがその持てる技術と能力で無双するところです
こう書くと本作も良くある俺TUEEE作品と同じじゃないかと思われるかもしれませんが、決してそうではありません。
エルマが技術や能力を発揮するのは侍女として相手に奉仕するためなので、相手をやり込めたり下げたりするような傲慢に感じる部分がありませんでした。
また、相手の職分に踏み込んでしまったり相手の技術以上のものを提示してしまっても、その後、相手の立場や矜持に気遣いやフォローをしているところが、本作品の読後感を爽快にしていると思います。
エルマは世の中の普通、常識的な能力というところは不慣れですが、気配りや気遣いといった部分がしっかり出来ているのでエルマの態度に不快感を覚えないのだと思います。
まあ、ダンスの時は相手を明確に打倒していましたが、あれは奉仕ではなく対決でありましたから例外としておきます。
対決となってしまった理由も参考にした本に問題がありましたからね(笑)
という感じで主人公エルマの活躍と普通とのズレをギャップとしたコメディ要素を十二分に楽しめる面白い作品でした。
またクライマックスで明かされる事実を読むと、エルマを包む愛情や友愛を感じて胸が暖かくなること請け合いです。
エルマが本当に魅力的でしたし、その周りを固めるキャラクターも良い人が揃っていて読んでいて胸が暖かくなりますよ。
個人的に2018年に読んだ新シリーズ作品ではナンバーワンです。
出来れば多くの方に読んでいただきたい作品ですし、個人的に2018年に始まった新シリーズの中で現状トップの作品です。
いきなり買うことはハードルが高いかもしれませんので、まずはこちらのWeb連載版を読んでみてほしいなと思います。
Web連載版を読んでみて面白かったのなら、ぜひぜひご購入ください。
Web連載版では2巻を出版する分の書き溜めがあるようなので、引き続き『シャバの「普通」は難しい 2巻』が発売されるのを楽しみにしようと思います。
発売される前にWeb版も読んでおこうか、それとも出版まで我慢しようか悩ましいですね。
ネタバレありの感想
ここから下は『シャバの「普通」は難しい 1巻』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
エルマが可愛い
本作品はエルマという魅力的なキャラクターが誕生した時点で勝利確定です。
どんなことでも出来る、不可能は無いというような超然としたキャラクターをしていますが、その内心は年相応の女の子であるというギャップは最強すぎますね。
読者視点から見ていた難問、宮廷料理長との料理対決、解放骨折の手術、第二王子暗殺の陰謀を暴くことよりも、世の中の普通を理解することに苦労し、挫折を感じて故郷である監獄に帰りたい、帰ろうとするところなんて、コメディとして笑えましたし、エルマのことを可愛く思っちゃいましたよ。
しかも、監獄に変えるために第二王子暗殺の首謀者を洗脳して、自分を首謀者と偽ってまで監獄に帰ろうとするなんてすごいですよね。
いやいや、持てる技術の使い方が明後日の方向すぎる。洗脳するより先に、普通に監獄に帰ればいいのに(笑)
エルマの麗しい素顔を隠すための分厚い眼鏡があることで、結果的にエルマが世間の普通に困惑していたことを隠していたというところが上手いなって思いましたよ。
エルマは表情を読む技術を身につけていますし相手の考えを読むことも出来ますが、相手の本心や気持ちに疎いところがあります。
その部分を逆に言えば、エルマは自分の気持ちを想いを相手に伝えるという点も疎いのかなと思います
監獄の中ではエルマは親たちの愛に包まれ、エルマ自身が感情を相手に伝えるよりも先に相手の方で察してくれていたんでしょうね。
そんなエルマだからこそ、エルマの母であるハイデマリーは心配し「普通の女の子になる」様に言いつけて監獄から送り出したと私も納得できました。
今後、エルマは初めての友人であるイレーネやエルマに惚れかけている第二王子のルーカスと友愛を育んでいく中で、世間の普通を、自分以外の他者の中にある普通を学び理解していくのだと思います。
余りにも世間の普通から外れているエルマですが、監獄というエルマにとっての揺りかごの外にいた優しい人たちに囲まれ過ごしていく中で、自身の普通と世間の普通に折り合いをつけていくのでしょうね。
まあ、エルマの普通と世間の普通のずれが大きい分、折り合いをつけていく過程で大きな騒動が起こっていくのだと思うと、その騒動を読ませていただくのが凄い楽しみです。
エルマが第二王子の愛に絡めとられていくのか? それともその想いに気づきながらも超然とした態度でいるのか? も凄い楽しみです。
いつまでも超然としたままのエルマでいてほしいような、愛に気づいて狼狽える姿も見たいような複雑な気持ちです。
本当に面白いし、お勧めの作品ですので『シャバの「普通」は難しい 1巻』を多くの人に読んでいただきたいなと思います。
シリーズ感想
お勧めの作品
今回のお勧めは先ごろ完結編が発売された『ランス10』をと思いましたが、作品がアダルト作品のためリンクなしです。
この『ランス10』にでてくるスーパーメイドのビスケッタさんと、エルマの姿が重なりました。
どちらも黒髪眼鏡のメイドさんという事でビジュアルが重なりますし、メイドの本分という点も重なるように思います。
主が頼めば、一を聞いて十を知り手抜かりなく依頼を遂行し、奉仕を行うまさに完璧なメイドさんですよ。
ビスケッタさんもあらゆる分野で一流の才能を持っていますし、この2人が出会っていたらエルマが自分は普通だったと誤解していたかもしれませんね(笑)
そんなビスケッタさんに興味を持っていただけましたら、『ランスクエスト・マグナム』と『ランス10』をプレーして頂ければと思います。