2015年7月22日12時20分。弘橋高校1年A組の教室に異世界の魔法使いを名乗る謎の女性、タタが突如出現した。後に童話になぞらえ「ハメルンの笛吹事件」と呼ばれるようになった公立高校消失事件の発端である。 「私は、この学校にいる全ての人の願いを叶えることにしました」 タタの宣言により、中学校の卒業文集に書かれた全校生徒および教職員の「将来の夢」が全て実現。そして、あらゆる夢が叶った世界が現れる。だがそれは、ある生徒の『異世界を旅したい』という願いが実現したことによる異郷の地だった――。現実から隔絶された世界での彼らの武器は、かつての夢。日本へ帰還するため、全校生徒による過酷な異世界サバイバルの幕が上がる。
『タタの魔法使い』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
第24回電撃小説大賞 大賞作品です
当初は購入予定ではありませんでしたが、twitter上での賛否入り混じる感想を見て興味が湧いて購入しました。
自分の中で『タタの魔法使い』が、どんな評価になるかを楽しみながら読んでいきました。
ネタバレなしの感想
本作は教師・生徒ごと校舎が焼失した「ハメルンの笛吹事件」について、当事者たちに聞き取りした結果をまとめたものと言う体裁で話が進んでいきます。
物語の語り部は事件の主要キャラではありませんし、神の視点を持つものでもありません。
当事者や関係者からの情報を得た第三者がドキュメンタリーとしてまとめた作品であるという点が、本作の独自性を出しているのだと思います。
本作は架空のドキュメンタリー作品ともいえるため、語り部である製作者の主観が受け入れられるか否かが、本作を称賛するか酷評するかの分かれ目になっていると推測されます。
異世界転移事件のドキュメンタリーという物語の切り口に、面白みを感じる方にはお勧めの作品ですね。
その一風変わった作風が本作のウリともいえますが、語り部の主観や主義に読者の波長が合わないと途端に地雷となってしまう恐れがあります。
この語り部である人物『青木海』の主観を好意的に受け入れることが出来なかったため、私は本作品を好きになれませんでした。
ただし、好きにはなれませんでしたが、本作品を楽しむことができましたし、面白いと思っております。
異世界に転移させられたキャラクターたちのサバイバル生活と、脅威に立ち向かう姿を楽しむことが出来ました。
主要キャラクターが複数いる群像劇の方式になっており、それぞれのキャラクターの見せ場では胸が熱くなったり、意外な行動に驚くこともありました。
物語の先が気になり手を止めることがなくサクサクと読めたということが、本作が一定以上の面白さがあることの証明だと考えています。
逆にサクサクと軽く読める感じ故に、本作品に深みや奥行きを感じず、読後に作品について考えることが少なくなった原因かとも思います。
異世界に転移した総勢494名のうち死傷者200名超を出した大惨劇のはずですが、ちょっと危険がある旅路の様に私は受け取ってしまいました。
その原因としては、主要人物が集まる「1-A」がクラスとして団結していたこと、クラス内に冒険に有意な存在が多数いたことが要因だと思います。
例え危険があっても叶えられた夢の力で何とかできるんだろうという安心感があったということです。
また、聞き取り調査をした対象は生存者たちになるため、「1-A」の主要キャラクターは生存確率が高いことと、生存しているがゆえに凄惨な場面に立ち会うことが少なく、その場面が描写されなかったという点もあるかと思います。
新しい物語の切り口を表現された作者に感心しつつも、その切り口の利点を十分に出せたかについては疑問を感じるというのが私の感想です
表面上は明るく軽快な物語の少し裏側に、悪意を感じる部分が多々ありました。
悪意の表現の仕方にこそ作者の力量がハッキリと出ていたように思いますので、もっと悪意を前面に出した次回作を期待しています。
そんな作品は好きにはなれないでしょうが、それでも面白さは感じるのではないかと考えています。
本当に最後の最後まで読んで、こんなに悪意を感じた作品はめったにありませんよ(笑)
ネタバレありの感想
ここから下は『タタの魔法使い』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
物語の語り部について
本作『タタの魔法使い』はドキュメンタリー風の物語であります。
そのため、製作者「『青木 海」の主観を表に出すために作成されています。
その語り部である「『青木 洋』の姉」主観と主張が読者に合えば物語に引き込まれていきますし、合わなければ物語に入り込めなくなります。
私は彼女の主観による「ハメルンの笛事件」当事者たちの行動に対する批判的な評価が肌に合わなかったため、作品に入り込めませんでしたし、本作を好きになれませんでした。
よく話題となっている日本の学校の特異性であったり、日本は凄いというエピソードであったりの表現は、特に反感も覚えず流すことが出来ました。
ですが、「ハメルンの笛事件」当事者たちの行動へのダメ出しや、一部人物への批判的表現は反感を覚えましたね。
どうして反感を覚えたかといえば、実際に巻き込まれず安全な場所にいた第三者が、したり顔でこうすればもっと犠牲が少なく済んだと上から目線で述べる姿に醜さを感じたからといえます。
後から振り返れば幾らでも最善策を言えるわなという点もありますが、語り部が批判する相手からの反論がない点が特に醜く感じる理由となってしまったのでしょう。
「生徒たちの感情に主眼をあてる」ことが目的のドキュメンタリーであるのなら、教師陣の失策を批判するのは主眼とずれています。
逆に批判を行うのであれば、その当時の教師陣の行動や判断、その時の気持ちをインタビューしたうえで批判すべきでしょう。
いやもう本当にこの語り部『青木 海」とは気が合わないんだなってくらい批判的な言葉ばかりが出てしまいますね。。
P.274にある「その後の一年A組」のについてなどは、上から目線過ぎてちょっともうきつかったです。
また、本作をインタビューに応じてくれた関係者に配布するとありますが、目を疑いましたね。
事件当時者たちの感情が赤裸々に乗っている点は、本作の主眼がそこに置かれているためまだ我慢できます。
ですが、異世界で理不尽な目に遭い死んでいった同級生のことを悪しざまに描かれている本とか読みたいでしょうか?
『今井』が錯乱して一人逃げたことを死んだ後も非難される云われは決してないと思いますよ。
『上杉』の自己犠牲の発露は美しく心動かされるものがありますが、一介の力を持たない学生が錯乱したことを叩く様なことは出来ないです。
生存者からの聞き取り、しかもごく一部の当事者たちの意見のみが反映されているドキュメンタリーとか叩かれても仕方ないでしょう。
もう、『タタの魔法使い』の明確な悪意よりも、『青木 海』が語り部として自然と出す悪意の方が始末悪いまでありますよ。
『タタ』には一矢報いることが出来てカタルシスを感じられましたが、『青木梅』には反撃する術がなく、彼女が出していた全能感を批判する術がないですからフラストレーションが堪ることこの上ないです。
『青木 海』が異世界に転移させられて、彼女が述べていた正しい行動を自身で実践してほしいです。。
この上から目線と批評癖がある限り、仲間が素直に『青木 海』の指示や助言に従うことは無い気がしますけどね。
架空のドキュメンタリーという作風は目新しく面白くなる要素があると思いますが、主観に歪みがあり、その点で好きになれませんでした。
「うーぱー先生」の次回作も購入しようと思いますが、次回作でも語り部との相性が合うかが気になります。
合わない場合は、もう「うーぱー先生」の作品に手を出さない方がいいんだろうな。
シリーズ感想
お勧めの作品
コチラの作品は、ドキュメンタリーではなく体験ルポ的な異世界ダンジョン探索物です。
語り部の違いなのか、作者の表現方法の違いなのか、こちらの作品の語り部には反感を覚えることなく楽しく読めました。お勧めです。
コメント
表紙の絵柄が古すぎる時点で地雷臭しかしないわね。
コメントありがとうございます。
イラストはライトノベルの売り上げに直結する部分でありますし、王女様がそう思うのも仕方ないのかなっという気もしますね。
王女様による本作品の感想を読みたいと思いますので、ちょっと残念です。
タタの魔法使いを本日読みました。
気になったことがあり検索掛けてて、このページを見付けました。
感想を読んで、私とは違う観点を持たれていて興味深く思ったので、コメント残します。
2年以上前のものにコメ残されてもどうしようも無いでしょうけど。
まず作品は面白かったです。
冒頭から重苦しくてハッピーエンドで終わらないことが伺える語り口ですが、それが単なるハリボテではなく実を伴った内容として最後まで貫かれているのは良かった。
ただ暗い話や人がいっぱい死ぬ話が好きなわけではないので、続編は今のところ読む気は無い。(検索しているときに2と3があることを知りました。しかも微妙にネタバレしてるし…)
なお、私は絵で地雷を判断しません。当たり前だけど。
もう2年はラノベ買っていませんが、電撃文庫大賞、金賞あたりは通しで読んで大体面白い、と思います。地雷とか無い。
銀賞は趣味が合わないと、部分的には評価できても面白くない展開が続くこともある、という認識。
本作の話に戻ると、終盤で「そこまでだ!」と言って蹴りを入れるシーンが一番好きです。
ずーっとうっ憤が溜まる展開が続いた後でのあれは読んでて気持ちよかった。
それから、素人が書いたドキュメンタリー形式だからなのか、「え、この子死ぬの??」って思わせる表現がところどころあってヤキモキしました。最後まで読んで死ななくて良かった~みたいな。
同じ理由なのか、生存者数の表現で、終盤の大規模戦闘後の生存者数より、最後に語られる最終的な生存者数が増えているのが謎でした。最初に消滅した成績上位者20名程度が戻ってきた、ということなのだろうか。
ただ、もしドキュメンタリー形式で無ければ、主人公の生還は読んでいる途中では確信が得られなかったはずで、この展開だと異世界に残留する選択肢も普通にあるわけだから、その辺りでもっとドキドキできたかも知れない。そう思うと少し残念ではある。
構成全体の話をすると、一冊でちゃんと完結し、テーマはあまり明確では無いけれど「夢」をキーワードにした成長物語に属するのかな。ちゃんと心に残るものがある良い作品だったと思います。
出てくる登場人物、とくに女子は「ラノベのヒロイン」ではなく、一人の「人間」として描かれていて良かったです。やや写実的なイラストもそれに合わせたものなんでしょう。これで、デフォルメの効いたアニメ調の挿絵だと、死体シーンも興ざめですからね。
なお、私は読破するまでは巻頭イラストを見ない主義の読者です。カバーもかけっぱなので、読みだすときには表紙イラストのことも忘れて、文章だけで登場人物をイメージしてます。
くじらさんの感想で出てきた海さんについては、あまり思うところは無かったです。ただ最終頁まで兄貴だと思ってました。
読み始めは語り手のことを意識してましたけど(弟の描写のところはとくに)、中盤以降は全然眼中に無かったですね。
読んでいる最中は、ある生徒が批判されてたことも気にしなかったし(女子側の様子が気になってしかたなかった)、前半の教師連中への批判も全容が分からないので判断しようが無いと思っていました。ただ、教師の評価については、帰還まで描き切った後に、あれが悪かった、これが良かったというまとめが入ると思っていたのに、無かった・・・。
で、くじらさんの感想を読んだ後の感想になるけれど、確かにおっしゃる通り。ただ海ちゃんもおこちゃまってところまで考えると、弟寄りになるのは仕方ないかなぁ、と思いました。でもそれを指摘する文が一切無いのはフェアではないかも。それにドキュメンタリーといっても、今井の両親はこれ読んだら納得できないし、酷く傷つくでしょうね。私としては今井よりパニックで暴走して行方不明になった江田の方が相当足を引っ張っているし、イラっとしました。こいつが犬みたいに走っていかなければ、負傷者1名のみを飛行魔法で緊急搬送できただろうし、その結果、本隊への救援も早かったはず。
今井への批判は取りまとめの中だけにあって、流石に一般公開する本の中には組み込まないと思いたい。
教師陣のインタビューについてはその通りだな~と思いました。失策と言い切るなら、本人達のインタビューはやるべきでしょうね。で、実際は公式な記者会見やらで教師側の主張は出尽くした後の世界、って体なんでしょうし、となると教師にも箝口令が出てて、その辺の話はできないのかも知れないし、そうなると公平性を期す為にドキュメンタリー内での批判もNGでしょうね。
くじらさんの感想を読まなかったら、この辺りのことには思いが及ばなかったでしょうから、感想書いていて下さってありがとうございます。
ここからは私の憶測になりますが、総評するとドキュメンタリー風ではあるけれど、完全にドキュメンタリーにはしていないんでしょう。それはわざとなのだと思います。今井のことを悪く言いたかった。それは海の気持ちではなく、物語の主人公である洋の気持ちなんだと思います。親友を亡くした責任を誰かに押し付けたい。普通の小説なら地の文で今井への不満を書けるけど、ドキュメンタリーの体を取っているのでそうできない。王国側の事情とかは反則技使って形を繕ったけど、そうやって繕っていった結果、カバーできなかったのが今井と教師陣の失策の話なのかな、と思いました。
最後に。
イラストを見て思ったこと。担任の先生、何でいないのさ…。ゲストの騎士様はいるのに。