『天才王子の赤字国家再生術 3巻 ~そうだ、売国しよう~』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
あらすじ
「宗教勢力を利用して国の価値を爆上げだ!」
帝国皇女との結婚話に端を発した騒動を切り抜けたウェイン。そんな彼の下に隣国カバリヌより使者が到着する。大陸西側の一大宗教・レベティア教の主催する『聖霊祭』にウェインを招待したいというのだ。
絶大な影響力を持つ『選聖候』たちが集うイベントということもあり、ろくでもないことに巻き込まれることはほぼ確定。それでも隣国と友好関係を結ぶため、ウェインは渋々西へと向かうのだが――!?
クセ者だらけの国際舞台に、天才王子が本格デビュー! 大人気の弱小国家運営譚第三章、ここに開幕!
ネタバレなしの感想
東西の勢力に挟まれた弱小国家ナトラ王国の皇太子ウェインが国を売って楽をしたいとぼやきつつも、その圧倒的な才能を活かし、国を富ませていく物語の第三巻です。
今回はマーデン王国を制圧した西方の国カバリヌよりウェインのもとに届いた大陸西側の一大宗教・レベティア教の主催する『聖霊祭』への招待状が騒ぎのきっかけです。
『聖霊祭』に参加をし西側の個性の強い諸侯に対面しての顔つなぎや、カバリヌ国の狙いに上手く乗じ勢力拡大を行うといった話ですね。
また、カバリヌ国に占領されたマーデン王国には復権を目指す残党軍もありまして、各勢力の思惑が入り乱れてどのように物語が動くのかを楽しめました。
前巻『天才王子の赤字国家再生術 2巻』では東側にある帝国の内情が描かれていましたが、今巻では西側の諸国の姿が描かれています。
西側で大きく広がる宗教のトップである聖王を
選聖侯になるためにウェインを支持してくれるであろう西側諸国の諸侯に面会していますが、出てくる諸侯が皆個性的ですしアクが本当に強い方々ですわ。
最初に出てきたグリュエールは若干変わった人物ではありましたが真っ当に有能に描かれていた分、その後に出てきた二人にたちの異様さと非常識さが色濃く描かれていました。
壊れた芸術家もどきのロッゾ公は芸術に関わらない存在に対しては害悪にはならないのでしょうが、ことが芸術に関わると途端にストッパーが壊れた暴君といえます。
ロッゾ公のいう芸術を生み出すために犠牲になった芸術家たちには同情しかできないですよ。
ウェインも芸術を介する人物とロッゾ公にみなされた様なので、ロッゾ公の影響が及ぶかもしれないという恐怖があります。
そして大陸西部で勢力を誇るレベティア教の権力者、福音局局長カルドメリアも悪意と害意のある人物として描かれていました。
ロッゾ公の場合と違い、彼女は自分の悪辣さを意識したうえでその行いを止めるつもりが無い点が恐ろしいです。
カルドメリアの行う陰謀や策謀をウェインが利用することはあっても、この両者が協力や共闘をすることは立場的にも目的からしてもあり得ないのでしょうね。
カルドメリアは今後もウェインの敵側として立ちはだかる壁になりそうです。
選聖候たちが個性的な面々であったため、今回の舞台であるカバリヌ国の面々は影が薄いというか良いところが無かったなと。
ウェインと対峙するには力不足であったと言わざるを得ませんね。
むしろ、出てくるとは思わなかったマーデン残党軍の方が印象に強く残りましたよ。
マーデン残党軍を率いるヘルムート王子の成長と立ち回りも今巻の見所であったと思います。
その成長に寄与したウェインの行いを考えれば、エピローグでのヘルムート王子の選択も妥当なものでしょう。
人を惹きつける能力と魅力がウェイン王子には備わっていますから。
今回も自ら陰謀策謀を張り巡らし、時刻に有益な成果を引き出した天才王子のウェインです。
楽したいと常にぼやいては居ますが国益のためになることを率先していますし、根はまじめな働き者ですね。
ニニムに突っ込まれたいがゆえにぼやいているんじゃって気がします。
前巻では帝国皇女に主導権を握られていましたが、今巻ではほぼ主導権を握り能動的でした。
ウェインの仕込みが活用されたクライマックスでの戦闘も爽快でした。
これまでウェインが蒔いていた策謀の種が実り、本来であれば互角の勢力を一蹴してしまうのですから本当溜まりませんよ。
それに事前の準備もすごいとは思いますが、それ以上にウェインについて凄いと思ったことは急な事変も利用してしまう当意即妙な対応能力です。
他勢力の陰謀や策謀を逆に利用するところもですが、自分自身の激情も計算の上で活用するところはある種、強敵ともいえるでしょう。
本当、カバリヌ国王との2度目の面会時、ウェインの行動は度肝を抜かれましたわ。
普段の昼行燈のように有能さを隠すウェインと、彼の逆鱗に触れたものを打倒す非情なウェインと二面性がありますが、彼の本質は後者な気すらします。
ニニムという唯一無二の存在がいるからウェインという人物は人間としての形をとっているんじゃないかなって思うのはたぶん私の考えすぎなんでしょうね。
ウェインの傍らからニニムがいなくなったらと思うと恐ろしさを感じます。
まあ、ウェインとニニムが離れるところなど想像したくないですね。起きないことを願います。
むしろ、普段の二人の何気ないながらも暖かみを感じる姿が好きなので、そういうシーンをもっと見たいなと贅沢に思ってしまいますね。
後書きによりますと次巻では舞台を東方に移して、ウェインの学友たちも出てくる展開のようですね。
『天才王子の赤字国家再生術 2巻』で描かれていたウェインが留学していたときの交流も暖かみがあって好ましいものでしたので、かつての学友の登場にワクワクしますよ。
次巻も楽しみです。
ネタバレありの感想
ここから下は『天才王子の赤字国家再生術 3巻 ~そうだ、売国しよう~』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
今巻ウェインについて
今巻のウェインの活躍に触れる上で、絶対に外せないのはカバリヌ王殺害です。
カバリヌ王がフラム人に対する蔑視(狩りの獲物にする、国内では根絶した)という発言をウェインに対して話した以上、ウェインとカバリヌ王とが友好関係でいられるとはこれっぽっちも考えてはいませんでしたが、その場で殺害までするとは驚きましたよ。
しかも、殺害した場合の不利益を考慮した上での殺害ですからね。
激情に駆られただけではなく、冷静に考えたうえでカバリヌ王を生かしては置けぬと判断した訳ですよ。
ウェインの中でフラム人の存在が、ニニムの存在がどれだけ大事なものであるかを如実に示されています。
ここまでウェインがフラム人の扱いを大切にしているとすると、西側諸国との友好的な関係は望めないんでしょうね。
西側に広がる宗教がフラム人迫害の元凶ですし、教義を変化させ西側にすむ人々の考えを変えない限り国交はあれども友好国とはなれないだろうな。
ウェイン自らが強かな存在と認めている民衆、その民衆に根付いた偏見を駆逐するのは簡単なことではないでしょう。
変革するためには変革に反発する諸勢力を抑えるだけの力が必要でしょう。
その力を蓄えるためにも今回のマーデン国の従属化は、ウェインが目標を達成するための大きな一助になるはずです。
まあ、ウェイン本人はまた面倒事が増えたと頭を抱えてぼやいているでしょうがね。
でも、ウェインの目標はぶれていませんし、その面倒事も飲み込んで戦っていくとは思います。
あともう一つ語るとすると名将ハガルを利用した反乱分子の洗い出しの件ですかな。
潜在的な反乱分子を浮かび上がらせるために不仲を装うという行為は、平時に乱を起こすタイプの策謀なので自分はこれはちょっとダメじゃないかと考えましたよ。
ああも簡単に反乱をする諸侯がいるのならば叩けば埃がでたでしょうし、蜂起するまえに証拠を押さえられたと思うのですよ。
内偵を行うのであれば官吏とスパイで十分ですが、反乱までいくと軍勢を用意しないといけませんし、失われる資源人材の多さを思うと無駄な出費だよなと。
本来は味方である臣下や諸侯もウェインのやり方を、味方すら欺く策謀を使う姿を知り畏怖するでしょうが、同時に自分も疑われているんじゃとかまた策謀なんじゃと疑心暗鬼になるデメリットもありそうです。
ハガルを活躍させるため、ハガルの人物を深堀するためのエピソードだったのでしょうが、自分は子の策謀については不満点が勝ってしまいました。
このエピソードでハガルが退場していたら、ちょっと続刊読むかは考えてしまいましたよ。
マーデン残党軍 ヘルムート王子
初登場時から顔を隠していましたので、まあ王子じゃなく王女なんだろうなと多くの読者に予想がついたと思います。
そしてカバリヌ国へ向かうウェインたちの随員として男装の麗人ゼノがついてくるとなった時、ゼノの正体は先ほどの顔を隠した人物であるとの予想も大半の読者がしていたでしょう。
今巻のヒロインは亡国の王女、今は亡き王子を騙る反乱軍の首謀者、男装の麗人という属性が盛り盛りのゼノヴィア王女でした。
『聖霊祭』へ向かうウェインに随行したことを契機にゼノヴィア王女が為政者として成長していった点が今巻の見所の一つだと思います。
当初のゼノヴィア王女は考えが足らず、祖国を裏切った人間を単身暗殺しようと考えるほど視野が狭い人物でしたが、ウェインの施策の数々を為政者としての考え方を学び、著しく成長しました。
エピローグでのゼノヴィア王女の振る舞いは、ウェインの思惑や周辺国の動向を読み切った上での一手でしたので、流石のウェインも読み切れなかったようですし、その強かになったゼノヴィア王女の姿に喝采ですよ。
本当に前巻の皇女といい、今巻のゼノヴィア王女といい、そして本命ヒロインのニニムといい女性陣がとても強いし魅力的な作品ですね。
ナトラ王国に従属を申し込んだということはゼノヴィア王女は旧マーデン王国の王族ではなく、ナトラ王国の諸侯としてウェインに仕えるのかな。
今後もゼノヴィア王女が出てくるとするのなら、ウェインにとって大きな一助となる有能な臣下の誕生ですね。
旧マーデン王国の併合すら大きな飛躍の序章に過ぎない訳ですし、今後どんどんと強大国となっていくであろうナトラ王国を支える有能な姿を続刊でも見られるといいな。
ただ、ヒロインとしてはニニムという大本命がいるのでゼノヴィア王女がウェインのハーレムにという展開は見たくないですね(笑)
シリーズ感想の索引
天才王子の赤字国家再生術~そうだ、売国しよう~ 1巻 感想
天才王子の赤字国家再生術~そうだ、売国しよう~ 2巻 感想
天才王子の赤字国家再生術~そうだ、売国しよう~ 3巻 感想
お勧めの作品
今回のお勧めは『売国機関1 (BUNCH COMICS)』
安直すぎる理由ですんません。
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