『トレース 科捜研法医研究員の追想 6巻』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
あらすじ
科学捜査研究研究員、真野礼二。組織のためではなく、真実のためだけに鑑定をする彼の元へ、また新たな鑑定資料がやってきた。
アパートの一室で起きた殺人事件。現場に残されたタバコの吸い殻と236点の血痕。そして、重要参考人に挙げられたのは、24年前に真野の家族を奪った
「練馬一家殺人事件」の担当刑事の息子志道優太だった。
真野の前に現れた新たな”手がかり“が24年前の事件が大きく動かし始める――。
ネタバレなしの感想
前巻『トレース 科捜研法医研究員の追想 5巻』で判明した当時事件を担当した刑事 牛濱勇。
その牛濱勇の息子であり現在フリーライターとして活動中の志堂優太の存在を知った真野礼二は、当時の事件の情報を父親 牛濱勇から何か少しでも聞いていないかと思い志堂との面談の約束をする。
一方、科捜研には殺人事件の調査依頼が舞い込み、その重要参考人として志堂優太の名前が挙がる。
志堂優太は殺人事件の加害者なのか?
そして真野礼二は志堂優太から24年前の練馬一家殺人事件に関する新たな情報・手がかりを入手することが出来るのか?
ドラマ人気放送中の『トレース 科捜研の男』の原作最新刊である6巻です。
24年前の事件の知られざる情報を持っているであろう男 志堂優太の登場も急ですが、その志堂優太が早速事件の被疑者として真野と関わるところも急に思えますが、物語が動き出した感じがしてワクワクしました。
この志堂優太という人物もフリーライターを生業としているだけあって一癖も二癖もある人物として描かれています。
志堂優太が父親である牛濱勇から伝えられた24年前についての情報も貴重なものでしたが、志堂優太自身も独自に事件を調べていそうな気配があります。
志堂優太が事件に興味を持つのは、事件の露悪的な部分を暴き出したい調べたいという欲望なのでしょう。
だから、志堂優太自身が被疑者となった事件(第六巻掲載のフリーライター事件)でも、彼が知りうる事実のすべては決して話さず、事件解決までの動きを傍観して観察していたのでしょう。
ジャーナリストとしての正義感を持ち合わせていない志堂優太が、真野礼二と関わり24年前の練馬一家殺人事件について独自調査を行ったとき、果たして真野の味方となるのかどうかは気になるポイントです。
役割的には独自に調査した情報を見返りを求めたうえで真野に提供し、真相に近づいたタイミングで殺されそうですが、果たしてどうなるのか。
物語も中盤に入って気になる人物が増えたのは朗報です。
志堂優太が係わることになった事件は、トレース作中の事件の中でもかなり気分が悪くなる事件でした。
この事件の大本の要因も酷い理由でしたが、殺害に至る過程の酷さは被害者よりも加害者側に気持ちを入れてしまいますよ。
この事件が解決し、志堂優太から新たな情報を入手できたのは朗報ですが、加害者たちの気持ちを考えると胸が痛いです。
事件の加害者とは被害者とはいったい誰なのかと改めて考え直すきっかけになりました。
メインストーリーである24年前の事件解決も物語として大いに面白いですが、こういった個々の事件でも解決の過程や事件の内容で唸らせてくれるのが『トレース』の魅力であるといえますね。
そして志堂優太より教えられた事件についての新情報たち、この情報によって何人かのキャラクターに対してみる目が変わってきました。
事件当時の警視総監である壇崇の行動と思惑、真野に深入りするなと告げていた虎丸良平が隠れて行っていた行動の意味など気になる情報がいっぱいです。
また、それとは別に壇浩輝がみせた奇矯な振る舞いの意味や心境がとても気になります。
事件について少しずつ情報が開示されてきますが、まだまだ解決に向けて足りない情報が多いです。
今後、志堂優太や虎丸良平、先生などから情報を集めていき真野礼二は事件の真相を解明することはできるのか?
そして真相が明らかになった時に真野礼二はどのような裁きを下すのかとても楽しみです。
ネタバレありの感想
ここから下は『トレース 科捜研法医研究員の追想 6巻』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
24年前の事件について
事件発生から時間が経過し、ついに作中でも23年前ではなく24年前の事件となりました。
今巻『トレース 6巻』で新たに当時の事件の情報を知る人物として志堂優太が登場しました。
志堂優太の方も真野礼二の事を把握しており、事件加害者遺族であり被害者遺族でもある真野礼二に大きな関心を寄せていましたので、今後もちょくちょく出てきそうではあります。
その志堂優太と真野礼二が直接対面し、情報を交換した場面は緊張感がありましたし、新規の情報が出てきて興奮しましたし、今後の展開を示唆して興味が惹かれる部分がありました。
ちょっと停滞していたかなと思っていた24年前の事件が勢いをつけて動き出しそうな雰囲気を感じましたよ。
私がこの二人の対面で新たに出てきた情報で気になった点は2つです。
1つ目は事件の真相が分かり真犯人も判明した際には、真野礼二が犯人を殺す気でいるという点です。
これまでも真野礼二は真相を知りたい囚われたままの闇から抜け出したいという願望と、真犯人へ裁きを下すという願望を持っていることが明示されていましたが、裁きの内容についても今回で明らかになりました。
個人的な復讐心で真犯人を殺すということから、もしかすると真野礼二が殺人事件を起こし、科捜研の研究員としての知識を利用して完全犯罪を目論むというエピソードが『トレース』の最終エピソードとし描かれるのかもしれないなと予想というか妄想というかしてしまいます。
作中でもことあるごとに科捜研なら完全犯罪も可能と明示されていましたので、可能性は低くないんじゃないkなと。
もし実際にそういった展開になったとしたら、その完全犯罪を防ぐのは真野礼二に師事して成長した沢口ノンナと、科捜研の仲間たちの協力であって欲しいなと思います。
2つ目は虎丸良平が独自に24年前の事件を調べていたという事実です。
初期のころから虎丸良平が当時の事件にかかわっていることはアピールされていましたが、あまり事件に深入りしていないような描写でしたので、その後も事件にかかわっていたという事実は大きいと思います。
事件現場に最初に駆け付けた警察官であり、事件の結末を疑問視していましたし、事件現場に不審な点を感じてもいましたので彼が調査を続けていたとすると、新たな新事実が提示されるんじゃないかという期待がありますね。
虎丸良平が独自に調査を続けていたといことからすると、真野礼二に事件にかかわるなと伝えたのは真野の身を危惧しての助言でもあり、自分が解決するから待っていてほしいという願いだったのかもしれません。
事件でただ一人生き残った遺族を守り、ただ一人犯人を逮捕しようと捜査していた虎丸良平が、真野礼二の味方側になってくれると大いに捜査が進みそうです。
ただ、虎丸良平も志堂優太も真野にとっては貴重な情報源ということで、真犯人からすると余計なことをする邪魔者にすぎないんですよね。
事件の真相にそこまで近くなかったであろう新妻が24年前の事件現場で殺されたという事実からすると、真野も含めた3人はいつ害されてもおかしくないのが心配です。
そして、もしも関係者を害する存在がいるとすれば事件の真犯人か、自らのキャリアを守ろうとする壇崇が怪しい気がしますね。
壇浩輝について
今巻『トレース 6巻』では出番が少なかった壇浩輝ですが、読者に刻んだ印象は大きかったと思います。
父親 壇崇との会食の場面では、父親の壇崇も壇浩輝に人間性をつかめておらず危ぶんでいるような描写がされていました。
作中人物で一番、感情や狙いが把握できないキャラクターが壇浩輝であるといえると思います。
父親との会食の後、壇浩輝は24年前の事件現場に赴き義一の部屋があったであろう場所に寝ころび、義一の名前を連呼するという奇矯を見せていました。
この点から見ても壇浩輝の義一に対する執着の異常さが明らかだと思います。
人間味の薄い壇浩輝が唯一執着する存在が義一なのでしょうね。
そう考えると執着する相手を自ら殺してしまうことは考えにくいんじゃないかなって思います。
虐めて孤立化させてはいましたが、壇浩輝としては義一を虐めることで反応を楽しんでいたし、愛でていたのではないでしょうか?
義一を自ら殺し反応しない状態にはしないのではないかなと思えば、壇浩輝が真犯人であるとは考えにくいです。
果たして壇浩輝の思惑は私の予想通りなのか、その点も楽しみにして続刊を読もうと思います。
フリーライター事件について
あまり個々の事件については感想を書いてこなかったのですが、今回のメインエピソードであるフリーライターの事件があまりにも胸糞悪かったので触れざるを得ませんでした。
何が胸糞悪かったかといえば、過去の事件の被害者遺族であるという点をもって益山英彰が加害者家族の佐藤文乃に対して悪逆な私刑を行っていたところです。
被害者遺族であるという加害者家族にとっては強者のポジションを用いて、弱者の加害者家族を虐めるという点に同情できる余地が全くなかったですわ。
しかも恨んだ内容が逆恨み(事件の所為で進学できなかった、人生がうまくいかなかった)ですし、加害者地震ではなく加害者遺族に対してという八つ当たりでしかないですからね。
むしろ加害者家族であるという1点だけを持って迫害され続けてきた佐藤文乃の方に感情移入してしまいますわ。
身勝手な私刑で鬱憤を晴らしていた益山英彰が殺されたのは仕方ないし、殺されるような酷いことをしていたと思いますよ。
この被害者遺族が加害者(加害者家族)に個人的な私刑を行うことは正しいのかと考えさせるエピソードは、志堂との会話で真犯人を殺すつもりと答えた真野礼二について賛否を問うエピソードであるともいえるかと思います。
身勝手な八つ当たりとして私刑を行っていた益山英彰と、自身が闇に囚われる原因となった真犯人への復讐を考える真野礼二では、全く同一の私刑ではありませんが、私刑を行うという点では同一です。
では、益山英彰の行動は許せないのに真野礼二が行う場合は許せるのか?と問われたら答えに窮してしまいます。
加害者ではない佐藤文乃に私刑を行った益山英彰と、真犯人に行う真野礼二では比較として違うとは分かっているのですが、私刑という点で是とするか否か悩ましいです。
感情としては真野礼二の復讐は是としたいのですし、真犯人に報いを受けてほしいとは思っています。
本当に『トレース』はメインエピソードだけではなく、個々の事件でも考えさせられる良作ですね。
シリーズ感想の索引
トレース 科捜研法医研究員の追想 1巻 感想
トレース 科捜研法医研究員の追想 2巻 感想
トレース 科捜研法医研究員の追想 3巻 感想
トレース 科捜研法医研究員の追想 4巻 感想
トレース 科捜研法医研究員の追想 5巻 感想
トレース 科捜研法医研究員の追想 6巻 感想
2019年冬ドラマ関連作品
ゆうべはお楽しみでしたね 1巻
ゆうべはお楽しみでしたね 2巻
ゆうべはお楽しみでしたね 3巻
ゆうべはお楽しみでしたね 4巻
ゆうべはお楽しみでしたね 5巻
メゾン・ド・ポリス 退職刑事のシェアハウス 感想
お勧めの作品
今回のお勧めは『トレース 科捜研法医研究員の追想 6巻』です。
シリーズ最新刊は当然ドラマ放映開始時期に合わせて発売です。
ドラマの人気で売れ行き好調の様ですね。
徳間書店 (2019-01-19)
売り上げランキング: 2,900