『ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5巻』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
あらすじ
学校側の介入というアクシデントがあったものの、1学年の最終試験を退学者なしで乗り越えたCクラス。最後の行事、卒業式を迎える。兄との最後の接触に踏ん切りのつかない堀北にアドバイスを与えつつ、綾小路は月城理事長代行対策に動き出す。システムにはシステムで対抗、坂柳理事長に連絡を取り、1年Aクラス担任の真嶋、茶柱と秘密裏に接触、交渉を試みる。一方で綾小路の偽の姿について疑念を持つクラスメイトも現れていた。好奇心と願望の下、1年Cクラス松下千秋が綾小路の追跡を始める。そして1年という月日は生徒同士の関係を大きく進展させるには十分な期間で――。新たな学園黙示録、1年生編完結!
ネタバレなしの感想
11.5とナンバリングされていることから外伝や挿話集のような軽いお話だろうと捉えていました。
ですが、読んでみると分かるのですがその捉え方は誤りでしたよ。
完全に本編の内容じゃないですか、この『ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5巻』を読まずに『ようこそ実力至上主義の教室へ 12巻』を読んでいたら驚いていただろうな。
特に軽井沢と綾小路の関係、堀北妹の変化、一之瀬と綾小路の約束とか今後の展開に大きく影響を与える内容ですよ。
1年生の実質完結ということで作中で経過した1年間の総決算と、2年生編に向けて主要キャラクターの立ち位置の確認という内容です。
堀北鈴音や龍園、一之瀬といった各クラスのリーダーの成長や心境の変化がメインに描かれています。
坂柳も含めてこのA~Dクラスの各リーダの個性と綾小路とのかかわりが本作品の面白いところなので、読んでいて楽しかったです。
他のリーダに比べ指導者としての素質に欠けていたと思える堀北鈴音でしたが、綾小路や堀北兄との関わりで随分とせいちょうしたのだなと改めて認識することが出来ました。
堀北兄の残した言葉、綾小路の考え方の変化によって今後も堀北鈴音は苦難の道を自ら選びながらも、他のクラスのリーダを上回る成長を遂げるのではないかと思えるようになりました。
現状の堀北鈴音は他のリーダに脅威的な存在とは認識されておらず、綾小路の理解の範疇から抜け出すような言動もありません。
ですが、これまで堀北鈴音が自らを縛る鎖となっていた兄への誤った憧憬から一歩踏み出せたことで、他の誰よりも成長できる可能性をみせたと思えました。
堀北鈴音には彼女のことを鍛えようと考えている綾小路の想像以上の成果を出すことを期待します。
堀北鈴音に綾小路の同学年の生徒の誰よりも上にいるという自然な思い上がりを打ち砕く存在になって欲しいです。
前巻『ようこそ実力至上主義の教室へ 11巻』で復活した龍園は、今巻でも目立っていましたね。
綾小路と龍園の関係性も大好きです。
誰よりも相手の事を認めているからこそ戦いたいという、闘争心が前面に出ている関係が本当にいいですわ。
耳に痛い言葉でも自身が認めた相手だからこそ受け入れるというところに、龍園の矜持が感じられます。
そしてそんな龍園の性格を見抜いている存在、椎名ひよりが龍園の脇を支えるわけですし、綾小路と龍園の再戦、Cクラス対Dクラスの戦いが楽しみですわ。
同じ相手に二度も負けることを良しとする龍園ではないでしょうし、再戦の時は龍園なりに綾小路かDクラスに勝てる算段が付いてからのはずです。
必勝の態勢を整えた龍園と圧倒的な強者である綾小路が第二ラウンドが待ち遠しいです。
綾小路と龍園のやり取りが強者同士の関係とすると、綾小路と一之瀬の関係は歪さを感じてしまいました。
今巻での綾小路と一之瀬の交流内容は、仲間に対するものでも敵に対するものでもなく、盤上の駒を上手く扱うような姿に思えました。
結果だけ見ると一之瀬が弱みを見せ、それを綾小路が支える様にもみえますが、対等の相手にとる態度にはみえませんでした。
これまでも一之瀬の窮地を綾小路が助けてきましたが、その綾小路の行為が一之瀬との関係の歪さと成長の阻害になってしまったいる気がします。
綾小路が一之瀬を助けるのも好意や善意ではなく敵としても味方としても計算しやすい相手に残ってもらいたいという思惑に思えます。
自らの至らなさに沈む一之瀬が、自ら成長し綾小路に敵として認められる立場となるのかが二年生編の注目点ではあります。
Bクラスはクラスとしても歪さを感じるので、一之瀬とBクラスについてはネタバレありの感想で掘り下げます。
各クラスのリーダ以外にも二年生編でぶつかるであろう生徒会長の南雲 雅、綾小路を退学させようと動く月城理事長代行のスタンスと綾小路の対応方針も描かれています。
クラス間での争いだけでも激しいものがあるのに、上の学年や教員とも戦うことになるとは綾小路さんマジ凄いっす。
当面は月城理事長代行との戦いがメインになりそうに見えますね。
対月城理事長代行 には坂柳や一部教員も味方になってくれそうですが、逆に月城理事長代行側につく存在もありそうです。
月城理事長代行がつれてくるホワイトホールからの刺客という存在が今一番気になりますよ。
慇懃無礼な一学年下の後背男性キャラクターが私の希望ですが、なんか女性キャラクターの予感もあります。
だって、綾小路さんってば人の感情の機微に疎いように見えて男性よりも女性とのかかわりの方が深いので。
今巻でも女性キャラクターと綾小路のかかわりが多めです。
堀北鈴音を始めとして、一之瀬や坂柳、椎名ひよりに松下。そして軽井沢と女性との会話やシーンが多めです。
逆に男性キャラクターだと堀北兄と龍園、それに平田くらいとしか深い話してないんじゃ?(石崎や池とは軽い接触ですし)
綾小路さんのモテっぷりが凄いですよ。
※そういえば櫛田や佐倉が出てきてないな、櫛田はまだしも佐倉さんは今後の出番的な意味でもヒロインの立場も危うい気がする、、、
そんな凄いモテモテの綾小路さんの告白には驚きました。
あのシーンを読んで綾小路さんと彼女の恋愛の先行きに明るい未来を想像できた読者居ないんじゃないかしら。
彼と彼女の関係がどの様に進み、どのような結末を迎えていくのかも続刊の楽しみです。
ネタバレありの感想
ここから下は『ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5巻』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
一之瀬とBクラスについて
格下であるはずのCクラス(龍園クラス)にもDクラス(堀北クラス)にも倒せない相手ではないと思われている一之瀬さん率いるBクラスです。
個々の生徒の能力も高く、団結力という点でも強いはずのBクラスなんですが、私も本作品を読んでいるとそこまで強力なクラスであるという認識がありません。
この理由はクラス間での争いでBクラスが圧倒的な戦果をあげていないことと、リーダである一之瀬が窮地や弱みをたびたび見せていることが原因な気がします。
だからといって一之瀬にリーダとしての素質が無いとは思いませんし、リーダとして堀北や龍園に劣っているとも思いません。
王道を征くという一之瀬の方針にクラスメイトが不満なく従っていくわけですから、彼女の人望と指導力は学年トップクラスであるといえます。
優秀なリーダである一之瀬が率いるBクラスが伸び悩んだのは、一之瀬自身の問題とBクラス自体の歪みが原因にあると考えます。
前巻『ようこそ実力至上主義の教室へ 11巻』で龍園を相手に敗北を喫した一之瀬は責任を痛感し、伸び悩むクラスポイントを前に沈み込んでいました。
そして抱え込んでいた悩みや不安を綾小路に打ち明けることで、僅かならが立ち上がり前向きになる気配を見せました。
一之瀬が立ち上がる気配をみせたことだけを捉えればポジティブに思えます。
ですが、一之瀬が悩みや不安を打ち明ける相手がクラス外の綾小路というところに問題の根本ではないかと思いました。
一之瀬の抱える不安を軽減してくれる仲間も、結果に伴う負担を分散してくれる腹心もBクラスにはいないということです。
クラスとして団結しているというと聞こえはいいですが、Bクラスの内実は一之瀬を盲信し追従するだけであり、自身の考えを持ち意見できる存在がいないのです。
いくら一之瀬が優秀とはいえ、方針を決める責任と決断によって生じる負担をすべて一身に背負えば、押しつぶされることは明白です。
坂柳の様に自分自身に絶対の自信を持ち、失敗や瑕疵も巻き返すことに不安がない心根の持ち主なら、仲間や腹心がいなくても問題なく坂柳による独裁体制で問題ないでしょう。
恐怖を用いて独裁を強いてきた龍園ですが、石崎や伊吹という元々の身内だけではなく、椎名ひよりという龍園の方針に染まらない立場の仲間を得ています。
龍園の方針に対して搦め手ではありますが、意見できる存在がおり、その意見を受け入れる度量を広げました。
堀北鈴音は元々リーダとしての素質は一之瀬に劣りましたが、この一年で大きく成長しました。
対立する他者を受け入れ、自身の方針をクラスの総意とする姿を見せるようになっています。
元々、まとまりが悪いが個々の力で秀でる部分のあるDクラスですから、意見のぶつけ合いや摺合せは活発です。
他のクラスに比べてBクラスは一之瀬の決定に意見できる存在が希薄なんですよね。
一之瀬が坂柳と同様に独裁的スタンスのリーダなら問題ないのですが、団結と協調を優先する一之瀬の性格を考えても独裁制は相応しくありませんしね。
その一之瀬に意見できるものが居ないという状態に一石を投じそうなのが、今巻で龍園と会合を持った神崎の存在です。
でも、神崎の行動が一之瀬の負担を減らすかというと疑問を覚えます。
一之瀬の足りない部分を補うという神崎の考えは、一之瀬のためにもBクラスの躍進のためにも間違ではないと私も思います。
ただ、独断で動いているというところに神崎の行動のまずさというか拙さや独善性を感じました。
一之瀬に相談をせず独断で動くということは、一之瀬の負担を軽減することとイコールではありません。
一之瀬に必要なのは足りない部分を補ってくれる存在だけではなく、相談できる仲間、異なる意見を伝えてくれる仲間です。
神崎と一之瀬が相談して意見を交換しないことには、前者はともかく後者は満たせないのですよね。
相談や意見の違いをすり合わせていくことで信頼感や一体感が生まれるわけで、それを行わずにいたら一之瀬の孤独や負担が軽減されないと思うのですよ。
それに独断専行されてしまうとそれによって失態が生じた場合、一之瀬が失態を補えなくなっちゃうんですよ。
神崎の行動はリーダに無断で動いたことの問題点を認識し、反省の上で独断専行を止めた啓誠の姿と対照的にも見えました。
啓誠の独断専行による損失は実質ありませんでしたが、、神崎の独断による過失がBクラス転落の切っ掛けになりそうで怖いです。
なんか、正直言いまして神崎の行動が結果的に一之瀬を更に傷つけるんじゃないかなと心配している自分がいますね。
本当に一之瀬って歪みはあるけれども本作一番の善人に思えるから傷ついてほしくないんですよ。
正しい道を行く人には幸せになってもらいたいという私のわがままな気持ちからなんですけど。
色々と一之瀬が窮地に陥ったり、沈んでいる場面が増えている気がするんで、本当に心配ですよ。
今回の神崎の行動によって更なる窮地に追い込まれた一之瀬が、綾小路さんも驚くような成長を見せてくれるといいな。
一年後の綾小路と一之瀬が笑顔で会える結果になることを本当に願ってしまいます。
軽井沢について
今巻では出番自体は少なかったけど、読者に残した印象はかなり強いキャラクターです。
まさか綾小路が軽井沢に付き合おうと告白するとか想像もしていませんでしたよ。
綾小路の突然の告白に狼狽しながらもおずおずと嬉しそうな姿を見せる軽井沢さんが可愛くて好きです。
そんな喜ぶ軽井沢さんとは対照的に綾小路さんの態度は寒々しくて怖いですよ。
告白の際、綾小路さんも嬉しそうだったりはにかんでいたりしたら、まだ2人の関係に明るさが差し込むのですががが。
読者のわずかばかりの希望を打ち砕く、最終ページの挿絵の怖さよ。
完全に冷めた真顔の綾小路さんがすんごい怖いんですけど。
恋愛を体験してみたい、綾小路に依存気味の軽井沢の気持ちを変えたいという綾小路の狙いは分かるのです。
でも、分かるからと言ってそれを受け入れられるかといえば、話は全く違います。
確かに依存気味の部分は治さないといけないとは思うのです、それは綾小路が正しい。
軽井沢が綾小路と恋人関係に成れたことを純粋に喜んでいるのを見ているからこそ、目的は正しいとはいえ恋心を利用するという手段が許し難いです。
恋愛至上主義だから恋心を利用するのが許せない訳ではありません。
軽井沢の想いを受け入れる受け入れないという対等な反応ではなく、利用するという対等の相手として捉えていないのが許せないのだと思います。
綾小路の正しさは受け入れるけれども、正面から相手の想いや気持ちに向かい合わなかったことに報いを受けてほしいですよ。
綾小路に対する依存症から抜けられた軽井沢から綾小路を振るという展開が観たいです。
そして振られた側の綾小路も依存症が無くなったことを喜びつつも、軽井沢に振られた痛みを感じてほしいものです。
その時には今回の告白とは逆に平気な顔をしているだろうと綾小路が独白しつつも、イラストでは少し痛みを感じる綾小路の顔といった演出にならないものであろうか。
まあ、一読者が予想したり望むような展開を覆すのが『ようこそ実力至上主義の教室へ』の面白さなので、私の希望ははずれるでしょうけどね。
でも、堀北をはじめとした同級生を下に見ているし、恋愛面でも相手の気持ちに向き合っていない綾小路さんですからね。
そんな綾小路さんが下に見ていた堀北鈴音に負けたり、恋愛面では軽井沢に振られたりとか、綾小路自身の想定の範囲を抜け出すキャラクターの動きが観たいです。
綾小路も父の掌の上から脱したように、他のキャラクターも綾小路の想定の範囲という掌の上から脱してほしいな。
シリーズ感想の索引
ようこそ実力至上主義の教室へ11 感想
ようこそ実力至上主義の教室へ11.5 感想
ようこそ実力至上主義の教室へ12 感想
お勧めの作品
一之瀬の補佐役にはキルヒアイスが適役だと思うのですよね。
一之瀬が王道を進むのを認め、その王道を支えてくれる補佐役はキルヒアイスだと思います。
一之瀬に足りない後ろ暗い部分を彼女に代わって行う訳ではなく、王道をまっすぐ進むための補助として敵の後ろ暗い策略謀略を未然に闇を叩きのめしてくれるんじゃないかな。
オーベルシュタインなら一之瀬の代わりに闇の部分を代役してくれそうだけど、一之瀬は清濁併せ呑むというタイプじゃないので、補佐役が独断で行った策略や謀略も自分の責任と考えて凹んじゃいそうだしな。
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