幼女戦記 10巻 Viribus Unitis 感想 ネタバレ あらすじ

幼女戦記 10巻 Viribus Unitis』のネタバレありの感想になります。

ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。

ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。

幼女戦記もとうとう大台の10巻に到達です。

物語序盤はサクサク話が動いていたので完結まで早いんじゃないかなと思っていましたが、幼女戦記の完結までは先が長そうですね。

面白い小説が長く続いてくれるのは嬉しいですが、話が停滞しているようにも思えてしまうのが難点です。

あらすじ

幼女、転職決意!!

帝国という国家の砂はいずれ尽きる。
遺された時間は、あまりにも少ない。
砂時計の砂が尽きるまでに、人はそれぞれの決断を迫られる。
ある者は、そんなはずがないと運命に目を瞑る。
ある者は、破局を拒絶する道を選ぶ。運命だとしても、大人しく滅ぶ道理があろうか。
活路を求めて彼らはあがく。

そして、ターニャもまた『愛国者』という仮面の裏で誓う。
己は、絶対に沈む船から逃げ出す、と。
「……転職だ。転職活動しないと」

しかして、社会的動物に逃げ道は乏しい。
帝国軍とは必要の奴隷なのだ。
彼らは、手段をえらばない。

ネタバレなしの感想

前巻『幼女戦記 9巻』から引き続き、先行きの見えない帝国の閉塞感が描かれています。

ここの戦場では帝国軍やターニャたちが活躍していますので、読んでいて爽快感を覚える部分もありますが、全体としその勝利が焼け石に水にしかなっていないのが帝国軍の辛いところです。

戦術的な勝利によって戦略面での劣勢を挽回出来ている訳ではありませんし、戦略面での立て直しはみうけられませんし、そもそも戦略面での立て直しのめども立っていません。

帝国側が情勢を挽回する時間も資源も既になく、帝国が衰弱死に向かうジリ貧すぎる情勢が続いています。

沈みゆく帝国の姿が軍部や政府の首脳層には当然理解が出来ていますが、打開するための術がないというのが絶望感や閉塞感につながっています。

そのため、『幼女戦記 10巻』では、優秀な人たちの嘆きやボヤキの連続でした。

もはや誰もが帝国の勝利を信じてはおらず、如何に被害を少なくして負けを得るかという後ろ向きの模索の連続です。

負けも仕方なしと考えても、条件付きの負けにもっていく方針が定まらない状況が続いていくところに帝国の組織的な問題点が浮き彫りにされているなと思えてしまいますね。

本作はあまり政治側の指導者が出てこない作品ではありますが、帝国側に名前がある政治家や指導者が皆無という点を考えると帝国は負けるべくして負けに向かっているなと考えてしまいます。

帝国軍は勝利を得ることはできるけれどもその勝利を活かす術を知らず、逆に勝利を得たことにより最終的な敗北に向かうという悪循環に陥ってしまいましたからね。

既に帝国勝利という結末はありえない中、ルーデンドルフ中将の考える「予備計画」やイルドア予防措置は、よりよい敗北を迎える術にならず、逆に帝国の破滅の扉を開ける鍵になりそうで怖いですね。

そんな絶望と閉塞感にあふれた帝国の情勢を把握しているターニャさんからすれば、祖国と共に滅んでいくことなど良しとする訳が無いですよね。

当然、沈みゆくことが歴然の船(帝国)からの脱出を考え、転職(亡命)を決意しています。

ただ、転職(亡命)のための伝手も対外的な実績も足りないと考えてもいますので、今後のターニャさんは伝手と実績を作るために奮戦していく感じになるのでしょうかね。

ターニャさんが今巻の戦闘であげた戦果を考えれば十分な実績に思えますし、帝国内で授与された勲章の数々も十分な実績に思えるんですが(笑)

それでも不足しているとターニャさんが考えている以上、対外的な実績を上げるためにこれまでよりも戦闘で戦果を上げていくことになるのかもです。

ただ転職(亡命)先からすればゼートゥーア中将の派閥に属する有力者が転職(亡命)を意図しているとは考えもしないでしょうね。

転職(亡命)を意図するターニャさんと、意図が理解できず撃退に尽力する連合王国のディスコミュニケーションがコメディとして楽しめそうです。

そのディスコミュニケーションコメディの最大の被害者にドレイク中佐がなるんだろうなあ。

今回のターニャさんとドレイク中佐の戦闘シーンを見るに、あの二人が仲良くできる姿が想像できないですからね。

前門のターニャ、後門のメアリースーさんに苦しめられるドレイク中佐に心の平穏が訪れることを祈っています。

最初の方にも書きましたが、今巻は引き続き帝国の劣勢な情勢を丁寧に描かれております。

帝国がどの様に劣勢に陥り滅亡に向かっていくのかを丁寧に描いているともいえますが、話として停滞感を覚えたのも事実です。

『幼女戦記 5巻』ごろまでは物語が軽快に動き、各巻で情勢が大きく変わっていた点が楽しかったので、ここ数巻の話の進まなさはちょっと残念でした。

ただ、作者のカルロ・ゼン先生の後書きにも次巻以降、ため込んだものがそろそろ爆発するとありますので、その爆発に期待して続刊を待ちたいと思います。

ため込んだ帝国劣勢の状況が爆発するのですから、ここからは滅亡に向かって一直線という事になりそうですね。

滅びゆく帝国から逃げ出そうとあがき、結果的に帝国の救世主となってしまうターニャさんの姿とか見られるんじゃないかとワクワクしてしまいますよ。

ネタバレありの感想

ここから下は『幼女戦記 10巻 Viribus Unitis』のネタバレありの感想になります。

未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。

帝国の行く末

もちろん敗北して滅亡寸前までいってしまうのでしょうが、その敗北と滅亡にどう向かっていくのかが興味深いところです。

幼女戦記 10巻 Viribus Unitis』の副題となっている『Viribus Unitis』はラテン語で「力を合わせて」の意味だそうです。

とても意味深な副題です。

何に向けて「力を合わせて」いくのか、そもそも帝国は「力を合わせて」いるのかという点が気になりますね。

私としては、帝国の勝利はもはや叶わない以上、出来るだけ有利な条件での講和(降伏)に向けて「力を合わせて」いくのだろうと考えています。

ただし、有利な条件での講和(降伏)を実現するためには軍部はどうするのか?官僚たちはどう動くのか?という点が一つにまとまっていないため、「力を合わせて」いくことは困難なんじゃないかと思います。

これは軍部と官僚を一つにまとめて動かす政治家や指導者がいないことが最大の問題です。

作中でターニャも考えていましたが、いまの帝国にはビスマルクといった偉大な政治家が居ないと。

大方針を定めてその方針を実現する術を示す政治家さえいれば、軍部も官僚も「力を合わせて」その方針を実現していくはずなのです。

大方針を定める政治家の不在のため、軍部も官僚も各々が正しいと思う方針を定めて動き出し、「力を合わせて」いない状態となっているのでしょうね。

今巻に出てきたゼートゥーアやルーデンドルフといった軍上層部、各国との講和を考えていたコンラート参事官と各々が帝国に未来を残そうと熟慮に熟慮を重ねていましたが、一つの目標に向かって「力を合わせて」いるとは言えません。

何故、優秀な人々が「力を合わせて」といえないのかと言えば、大方針が定まっていないからなのでしょうね。

大方針さえ定まっていれば、軍部も官僚も方針を実現するために協力するはずです。

ですが、現状の帝国では皆が共有する方針が定まっていないため、それぞれの組織がそれぞれの方向に勝手に動いているとしかいえません。

今巻で度々話題に上がっていた「予備計画」、そしてイルドアへの予防措置、この二つの方策のうちどちらかでも実施されてしまった時、帝国はより良い敗北すら手にすることは叶わなくなりそうです。

その方策を軍部が独断で実行した時、帝国国内でも軍部に「力を合わせて」いくことは不可能になるのでしょうね。

果たして軍部とその他の組織が「力を合わせて」いくことはできるのか?

そして「予備計画」やイルドアへの予防措置が実行されてしまうのか?

という点がとても気になりますね。

ただでさえ世界を敵に回し資源面で劣勢な帝国が、暗号まで解読され情報面でも劣勢に陥った中で、更に敵を増やす愚を犯すとは思えません。

ですが、貧すれば鈍するという点からイルドアまで敵に回すようなことを行わないとは言えないのが怖いところですね。

ドレイク中佐とメアリーさん

今巻で一番の不幸なキャラクターは誰かと言えば当然ドレイク中佐ですね。

東部戦線でもターニャと戦い負傷したのに、更に西部戦線でもターニャと戦う羽目になったのですから。

部隊戦闘というレベルでターニャのライバルとなるのは、メアリースーさんではなくドレイク中佐となるのでしょう。

ドレイク中佐とターニャは技量的には互角ですし戦術指揮も互いに優秀ですから、今後も戦場で両者が遭遇した時は、戦闘描写を面白く楽しめそうな気がします。

逆にメアリースーさんは、本当にどうしてこうなったという位に目立っていないですし、活躍も出来ていないです。

ターニャに対する好敵手足り得ないのは技量的に仕方ないのですが、本来メアリーさんのキャラクターとしてターニャと対峙する存在のはずなんですがね。

父親の仇であり、ともに存在Xに関わった存在として雌雄を決してもおかしくないのですが。

今のメアリースーさんは敵であるターニャはもちろん、本来は味方であるはずの人たちも苦しめるただの道化に過ぎないというのが悲しいところです。

メアリースーさんの苦悩や感情が描かれていないところからするに、今後もメアリーさんは活躍することはないし、お邪魔キャラクターに過ぎないのでしょうね。

味方のはずのメアリーの所業に苦しめられるドレイク中佐が可愛そうですわ。

どっかでドレイク中佐には報われてほしいな。

そして、どこかで己の所業の報いを受けるメアリースーさんの姿が見られる時が楽しみですわ。

シリーズ感想の索引

幼女戦記 8巻 感想
幼女戦記 9巻 感想
幼女戦記 10巻 感想
幼女戦記 11巻 感想
幼女戦記 12巻 感想

お勧めの作品

今回のお勧めは『幼女戦記(10) (角川コミックス・エース)』です。

ラノベ原作のコミカライズの最高傑作だと思います。

刊行速度も凄いのですが、やはり漫画であることの利点を生かした作風は凄いと思いますよ。

ターニャの幼女の部分を活かしているのは原作以上ですね。

本当に可愛らしいターニャに出会いたかったら、是非このコミック版を読むことをお勧めします。

幼女戦記(10) (角川コミックス・エース)
KADOKAWA / 角川書店 (2018-09-25)
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