『幼女戦記 11巻 Alea iacta est』のネタバレありの感想になります。
ネタバレありの感想になりますが、ネタバレありの感想になる前に注意書きをおいてあります。
ですので、未読の方やネタバレを見たくない方でも、そこまでは読んでいただいても大丈夫なはずです。
あらすじ
幼女、暗躍す。
戦争を続ける愚かさは、誰の目にも明らかである。
講和派としてレルゲンがイルドアに飛び懸命の外交折衝を行うも
失敗した場合の予備計画を巡りルーデルドルフ大将が暗躍。
これ異を唱えた盟友・ゼートゥーア大将は必要の女神に奉仕する。
『障害物は排除されねばならない』と。
義務。
必要。
友情。何が正しかったのかすら、見えなくなる総力戦。
昨日迄の正義は、今日の不正義。
それでもすべては祖国の未来のために。
ネタバレなしの感想
敗勢が明らかな帝国軍の中で、いかに不利益を少なくして敗北を受け入れるか苦闘していたゼートゥーアとルーデンドルフの両大将。
予備計画実行の同士であると思われた2人であったがイルドアへの予防措置を巡り対立を深めることとなる。
敗北を見据えるゼートゥーア大将は盟友ルーデンドルフ排除を決意し、ターニャにある指令を出す。
愛国心など皆無な機会主義者のターニャは果たしてその命令をどの様な想いで実行するのか。
ゼートゥーア大将は帝国を残す形での敗戦を準備することは出来るのか?といった内容の幼女戦記の新刊です。
物語序盤にあった疾走感が鳴りを潜め、ここ数巻は焦れるくらいに話が大きく動かず丁寧に劣勢著しい帝国の内情を描いてきていました。
その丁寧に描いた溜めの部分がついに放出され一気に物語が動き、読んでいて本当に楽しめました。
明確な国家指導者不在による終戦交渉の混迷という難問を解決するための予備計画がいつ実施されるのかとヤキモキしていましたが、まさかこのような結末になるとは驚きましたよ。
帝国をより良い形で残すという点では同じ思いだったゼートゥーアとルーデンドルフの両大将でしたが、イルドアへの方針の違いから決別する流れは必然ではあったのでしょう。
友を切り捨ててでもというゼートゥーア大将の強い意志が勝り、疑念は抱いたけれども友を信じたルーデンドルフ大将が敗れたのは之も必然だったといえますね。
纏まりを欠いたというか明確な方針が無く場当たり的な応急処置に追われていた帝国側は、今回の事件を経て有能な指導者が定めた明確な方針に従い終戦に向かい戦いを進めていくことになりました。
敗北を受け入れたうえでの終戦という悲劇に向かう帝国軍の中でターニャさんがどの様な活躍を遂げていくのかが今後の展開の見どころになるのでしょうね。
愛国者にとって受け入れがたい現実でしょうが、機会主義者であり帝国に対する愛着は有れど忠誠心や願望を抱いていないターニャさんなら冷静な行動をとれるのでしょうが、ターニャさんが望む展望にならないことには定評がありますからね。
自身にとって最良の選択肢を選べず終戦に向けての死闘激闘を遂げていくであろうターニャさんとサラマンダー戦闘団の姿が今後も楽しめそうで期待です。
イルドアでの赫々たる戦果と調達できた貴重な物資は、最後の時に向かって進んでいくための燃料なのかもしれないな。
ですが、これまでの両大将の交流と帝国勝利を目指し両輪となって活躍し支え合った姿を見てきただけに悲劇性が増していたと思います。
将校としての誇りを捨て、友さえも擲って、必要の命じるままに活路を見出そうとする様は正に圧巻。
今までの流れから帝国の運命は自明だったが、どう畳んでいくのだろうと思っていたが、ここで、あのような手段を講じるとは思わなかった。
ここ数冊やや間延びしていたがらこの本からは展開新たになり、また面白くなっていきそうだという期待をもたせてくれた。
前巻までの「予備計画」をめぐる軍高官の暗闘の方が、よほど読みごたえがあったと思うのは自分だけだろうか。
特に全11巻に渡って丁寧に描写されてきたレルゲンやゼートゥーアの人物としての変遷はこの為だけに最初から読んでもいい程良く出来ていると思います。
さて、前巻は最終盤への準備という感じで落ち着いていましたが、物語は遂に帝国の最期に向けて転がりだします。来るべき終焉に向けてターニャがどうあがくのか、終戦とその後に向けてこの世界がどう進んでいくのか、今から首を長くして次巻を待っています。
前巻までに示唆された予備計画が実行され帝都でクーデターが起こるのかと思っていたら、まさかの展開です。
ゼートゥーア閣下が実権を握る点は一致しますが、その経緯が想像とはかなり異なり驚かされました。
ネタバレありの感想
ここから下は『幼女戦記 11巻 Alea iacta est』のネタバレありの感想になります。
未読の方やネタバレを見たくない方は、ここで引き返すことを推奨いたします。
ルーデルドルフ大将
今巻で遂に退場を遂げてしまったルーデンドルフ大将です。
とても有能な人物ではありましたが、戦場から長く離れていたことがゼートゥーアと袂を分かつ切っ掛けだったのかもしれません。
ゼートゥーアによって暗殺されるところではありましたが、暗号通信を傍受・解読した連合王国軍による馘首戦術により斃れたのはルーデンドルフにとってもゼートゥーアにとっても幸せなことだったと思います。
あと直接ルーデンドルフを殺す役割を担うことになっていたターニャさん達にとっても幸いなことだったんだろうな。
よりましな敗北を終戦を迎えるために指導体制の明確化と一本化は必要でしょうが、友を討つということを、しかも暗殺という後ろ暗い手を使うという事は実行されていればゼートゥーアにもターニャさんにとっても影を落とすことになったでしょうしね。
ルーデンドルフの散り際、ゼートゥーアを疑ってしまったことを悔やんだ姿が描かれていましたが、そういったまともな精神を持った軍人だったからこそルーデンドルフ大将が退場し、ゼートゥーアが残ることになった理由といえます。
帝国がいたるであろう敗戦と終戦の条件は、ルーデンドルフが納得できるものに納まることを願いますわ。
ルーデンドルフ大将という超大物を打ち倒すことが出来た連合王国軍の喜びと、その後、ゼートゥーアによる権力奪取と指導一本化を知った時の絶望は半端なかっただろうな。
連合王国軍の諜報部はゼートゥーアの誘いに乗ってルーデンドルフを暗殺してしまったとまで誤謬していそうではありますが、諜報分野で圧倒的に劣る帝国軍が一方的に敗北しないためには、こういった誤謬もある意味天意とも言えるのでしょうな。
戦局の予想
ルーデンドルフというある種、良識派正統派といえる指導者が退場したことでゼートゥーア体制で一本化された帝国軍ですが、イルドア侵攻を実施するという点ではルーデンドルフ対象の方針とは変わりませんでした。
ただし、イルドア侵攻の内容と意味がルーデンドルフとゼートゥーアでは違うのでしょうね
帝国軍は開戦時と違い戦力的劣勢が続いておりましたが、このイルドア戦線に限っては開戦と同時の突撃を成功させるために贅沢なほどに航空戦力と砲門を集中させましたから、帝国軍の快進撃を楽しむことが出来ました。
本当に帝国軍が圧倒していた『幼女戦記 4巻』や『幼女戦記 5巻』までの様な帝国軍とターニャさんたちの快進撃を楽しめました。
お蔭で栄光ある帝国軍の勇姿を思い出すことが出来ましたよ。
この状況を作るためにこそゼートゥーアがルーデンドルフ大将暗殺を考え、実行することを決意したのでしょうな。
ルーデンドルフ暗殺という賽を投げられた以上、ゼートゥーアは帝国の為に全てを投げ打つ覚悟を決め、引き返そうとしたり後悔することは許されないのです。
そして覚悟を決めたゼートゥーアが打つ最初の大きな手がイルドアへの予防措置である侵攻作戦なのでしょう。
ただし、イルドア侵攻は緒戦の快勝で優位な状況を構築できましたが決してイルドア自体の占領などできませんし、総力戦や世界大戦全体を優位にするものでもありません。
イルドア側の思惑を崩し、連合王国を始めとした敵対勢力の蠢動を乱すことも目的とも考えられますが、帝国軍によるイルドア侵攻自体はまともな精神で考えれば悪手に過ぎないです。
そんな悪手を帝国軍が、ゼートゥーアが意味なく実施するわけはなく何か含みを持った一手なのでしょうね。
イルドアに侵攻することでイルドアに合衆国を引きずり込み、合衆国をも戦争に巻き込み世界的な厭戦気分から終戦に向けての条件を引き下げるのが狙いなのかしら?
もし私の予想が正しかったとすると新たな参戦国であるイルドアと合衆国という追加された戦力を抑え込み、犠牲を強いる必要が得てくるんですよね。
イルドアと合衆国が正式に参戦する前にもジリ貧であった帝国軍に2国追加された戦争に耐えることが出来るのだろうか?
これまでは義勇軍派遣という形で参戦していた合衆国が直接出てくることで、ターニャと合衆国にも繋がりや因縁が増えるのかしらね?
更なる帝国の劣勢を支えるためにターニャさんがまたまた悪戦苦闘するというシーンが増えそうで楽しみですわ。
シリーズ感想の索引
幼女戦記 8巻 感想
幼女戦記 9巻 感想
幼女戦記 10巻 感想
幼女戦記 11巻 感想
幼女戦記 12巻 感想
お勧めの作品
今回のお勧めは『幼女戦記(12) (角川コミックス・エース)』です。
ライトノベル原作のコミカライズの最高峰でしょうね。
内容も刊行スピードもコミカライズの中でダントツですよ。
それにしてもコミカライズ版ももう12巻ですか、原作11巻の内容に追いつくころには何十巻になってるんだろうか。
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